滋賀県長浜市でひったくり事件
【事件】
Aさんは滋賀県長浜市の住宅街で,帰宅中の女性の後方から自転車で接近しハンドバッグをひったくろうとしました。
とっさに女性がバッグを取られまいとベルトを強く引いたため,バランスを崩したAさんは転倒しました。
その後Aさんは女性を突き飛ばし,ハンドバッグを持って逃走しました。
この結果,女性は全治1週間の打撲傷を負いました。
被害届を受けた滋賀県長浜警察署の警察官によって,Aさんは強盗致傷罪の容疑で逮捕されました。
(フィクションです)
【ひったくり】
通常,ひったくりは強盗罪(刑法第236条)ではなく,窃盗罪(同法第235条)に問われる行為です。
強盗罪の法定刑は5年以上の有期懲役で,窃盗罪の法定刑である10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に比べて重たくなっています。
一般的にひったくりが強盗罪ではなく窃盗罪に問われるのは,被害者から財物を得るにあたって強盗罪が要求する暴行・脅迫が存在しないためです。
強盗罪と窃盗罪は,共に不法領得の意思をもって被害者の意思に反してその財物の占有を取得・移転させる犯罪です。
ちなみに,ここでの占有とは,財物に対する事実的支配のことを指します。
不法領得の意思とは,権利者を排除し,他人の物を自己の所有物と同様に利用しまたは処分する意思・目的を意味します。
そして強盗罪ではさらに,占有を移転させる手段として被害者の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫が要求されているのです。
ひったくりは無理矢理被害者の所持品を奪う行為であるため,広い意味での暴行は存在しています。
しかし,被害者が暴行により反抗を抑圧された結果財物を奪われたといえない以上,ひったくりは被害者の隙に乗じて財物の占有を奪ったにすぎず,窃盗罪の刑事責任を負うにとどまるのです(逆に言えば,被害者が反抗を抑圧される程度の暴行があったと考えられれば,ひったくりでも強盗罪になりえます。)。
【事後強盗罪】
ひったくりで注意すべき犯罪は窃盗罪・強盗罪のほかに事後強盗罪という犯罪もあります。
刑法第238条は,「窃盗が,財物を得てこれを取り返されることを防ぎ,逮捕を免れ,又は罪跡を隠滅するために,暴行又は脅迫をしたときは,強盗として論ずる」と規定します。
この罪が事後強盗罪と呼ばれるもので,通常の強盗罪とは順序を逆に,財物の取得の後に取り返されることや逮捕の回避,罪跡を隠滅する目的で暴行・脅迫に及んだ者を処罰する犯罪類型です。
事後強盗罪の暴行・脅迫も強盗罪と同様に相手方の反抗を抑圧しする程度の強度が要求されます。
事後強盗罪の主体は,窃盗犯人(未遂を含む)でなければなりません。
事後強盗罪が成立するためには窃盗犯人が行った暴行・脅迫が,
①財物を得てこれを取り返されることを防ぐ目的
②逮捕を免れる目的
③罪跡を隠滅する目的
のいずれかの目的で行われなければなりません。
つまり,ひったくりでも財物を奪った後に上記①~③の目的で暴行・脅迫を行った場合には事後強盗罪に問われる可能性があるのです。
今回の場合,Aさんは女性に暴行を加えた時点ではまだハンドバッグの占有を有していませんので,既に財物を得ていることを前提とする①の目的で暴行を加えたとはいえません。
Aさんは専らハンドバッグを奪う目的で女性に暴行を加えていますので,②や③の目的も有していません。
よって,Aさんが女性を突き飛ばしてハンドバッグを得た行為が事後強盗罪に問われる可能性は低いといえます。
【強盗致傷罪】
このように考えると,Aさんはむしろ最初に触れた単純な強盗罪に問われる可能性が高いといえます。
繰り返しになりますが,強盗罪は不法領得の意思をもって暴行・脅迫を手段として相手方から財物を奪った場合に成立する犯罪です。
Aさんの場合,この際女性が怪我を負っていることから,強盗致傷罪に問われることが考えられます。
強盗致傷罪は,人への傷害結果が強盗の機会になされた行為によって発生した場合に成立する犯罪(刑法第240条)です。
法定刑は無期または6年以上の懲役です。
Aさんにはひったくり行為をする時点で女性のハンドバッグを奪おうという不法領得の意思が認められます。
さらにひったくり(未遂)行為やその後の突き飛ばす行為など,バッグを奪うための暴行の存在が認められます。
その結果として女性は怪我をし,Aさんはバッグを入手しています。
以上より,Aさんが強盗致傷罪に問われる可能性があるといえるのです。
強盗致傷罪は非常に刑罰が重く設定されていることからも,素早い弁護活動が望まれます。
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