被害者なのに恐喝罪で逮捕?②
~前回からの流れ~
滋賀県東近江市に住んでいるAさんは、恋人である女性Bさんとともに自宅近くの商業施設に出かけてきていました。
すると、商業施設内で、Bさんにスマートフォンを向けている男性Vさんを見つけました。
AさんがVさんに問い詰めたところ、VさんはBさんのことを盗撮していたのでした。
AさんとBさんは非常に怒り、Vさんに「慰謝料として100万円支払え。そうでなければ滋賀県東近江警察署に盗撮の被害届を出す。そうなればお前は逮捕されるぞ。どういうことかわかるだろうな」と詰め寄りました。
Vさんはすっかりおびえてしまい、ATMで100万円を下すとAさんとBさんに渡しました。
その場はそれで収まっていたのですが、後日VさんがAさんとBさんに100万円を脅し取られたとして滋賀県東近江警察署に相談し、AさんとBさんは恐喝罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※この事例はフィクションです。)
・被害者なのに恐喝罪?
前回の記事では、恐喝罪とそれに類似する犯罪を取り上げました。
今回の記事では、Aさんのケースについて検討していきます。
AさんはVさんに恋人のBさんを盗撮されており、Bさんと一緒にVさんを見つけて問い詰めています。
こうしたことから、Aさん(とBさん)は被害者の側であり、むしろVさんの方が加害者であるように思えます。
そしてAさんらはVさんに慰謝料を請求していますが、額が適正かどうかは別として、盗撮の被害に遭ってしまったことからこうした慰謝料を求めるということも当然のことであり、不自然なことではないように見えます。
それでも、Aさんらは恐喝罪で逮捕されてしまっています。
何か被害に遭った時の慰謝料の支払いであったり、貸したお金の返却であったり、当然相手に請求すべきお金というものは存在します。
これを請求することも恐喝罪となるのでしょうか。
今一度恐喝罪の条文を確認してみましょう。
刑法249条
人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
前回取り上げたように、恐喝罪が成立するには「恐喝」行為が必要であり、それは財物の交付をさせるために暴行又は脅迫によって相手を畏怖させることです。
ですから、慰謝料等を請求すること自体には問題はないのですが、その方法が「恐喝」にあたってしまえば、当然請求するべきお金であったとしても恐喝罪となりえるのです。
過去の判例では、「他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする。」とされています(最判昭和30.10.14)。
つまり、慰謝料等の請求の権利行使の際、「その権利の範囲」から外れ、請求等の方法が「社会通念上一般に忍容すべきもの」を超えているとされた場合、恐喝罪となりうるのです。
今回のAさんの場合、慰謝料を払わなければ警察に届け出るということや、届け出ればVさんはただでは済まないというようなことを伝えています。
こうした伝え方から、脅している=脅迫を用いて金銭の交付を求めていると判断され、先ほど記載した「社会通念上一般に忍容すべきもの」を超えている方法での請求であるとされれば、恐喝罪となることも考えられるのです。
このように、一見当然のことをしているように見えるケースであっても、刑事事件になって逮捕されてしまうこともあります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は刑事事件の専門家である弁護士が所属する法律事務所です。
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