宝くじの当たりくじ偽造で詐欺・有価証券偽造等事件②
宝くじの当たりくじ偽造で詐欺・有価証券偽造等事件となったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県彦根市に住んでいるAさんは、年末に抽選の行われる宝くじを購入しました。
そして当選番号の発表日、Aさんが当選番号を確認すると、自分の購入した外れの宝くじと3等の当たりくじの番号が1つだけ違っていました。
そこでAさんは、「当選番号をごまかせれば当たりくじということにして当選金をもらえるかもしれない」と思いつき、自分の持っている宝くじの番号部分を当選番号に書き換え、X銀行へ持っていくと当選金への換金を要求しました。
しかし、受け付けた銀行員が宝くじの番号部分が通常の宝くじと異なっていることに気づき、滋賀県彦根警察署に通報。
駆け付けた警察官により、Aさんは有価証券偽造等・同行使罪と詐欺未遂罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※この事例はフィクションです。)
・宝くじの「偽造」と「変造」
前回の記事では、Aさんの宝くじ改ざん行為が有価証券偽造等罪にあたる可能性があること、宝くじが有価証券偽造等罪の「有価証券」であることに触れました。
刑法162条1項(有価証券偽造等罪)
行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
今回の記事では、まず、有価証券偽造罪の「偽造」がどういった行為を指すのか確認しましょう。
一般に「偽造」という言葉は「偽物を作る」という意味合いでとらえられますが、有価証券偽造罪の「偽造」といえるためには、実は細かい条件があります。
有価証券偽造罪の「偽造」は、その有価証券を作成する権限のない者が他人の作成名義を無断で不正に使用し、正しい有価証券のような証券を作ることを指します。
また、「偽造」は外観上一般人に正しい有価証券であると信じさせる程度である必要があります。
ですから、一目見て偽物の有価証券であると分かるようなものを作っても、有価証券偽造罪の「偽造」をしたことにはなりません。
つまり、単に偽物を作ったからといって必ずしも有価証券偽造罪のいう「偽造」になるとは限らないのです。
さらに、有価証券偽造行為と同じく、刑法162条で禁止されている行為として、有価証券の「変造」行為が挙げられます。
「変造」とは、正しく成立している他人名義の有価証券に、権限がないにも関わらず変更を加えることを指します。
ただし、このうち、変更を加えたことでその有価証券の本質的部分に変動が生じ、その同一性が失われた時には「変造」ではなく「偽造」であると判断されます。
有価証券を「変造」した場合も、有価証券変造罪として有価証券偽造罪と同様に罰せられることになります。
今回のAさんの宝くじに関して考えてみましょう。
今回のAさんは、自分が購入した外れの宝くじの番号を変えることで、外れくじを当たりくじに見せかけています。
Aさんが番号を書き換えた宝くじ自体は、元々購入した宝くじですから、宝くじを販売している銀行が発行した物であり、名義もその銀行のものでしょう。
したがって、Aさんが書き換えた宝くじ自体は、正しく成立している他人名義の有価証券であるということになるでしょう。
ですから、Aさんはその正しく成立している他人名義の有価証券に、権限がないにもかかわらず番号の書き換えという変更を加えたことになります。
このことから、Aさんは少なくともAさんは宝くじ=有価証券の変造は行っているだろうと考えられます。
後はこの番号の書き換えによって外れくじを当たりくじとしたことが、宝くじの本質的部分に変動が生じてその同一性が失われたと判断されるかどうかによって、有価証券偽造罪となるか有価証券変造罪となるかが決まるということになるでしょう。
過去の裁判例では、8等の当たりくじを1等の当選番号に改ざんした行為は有価証券変造行為であると認められた事例も見られますが、今回のように外れくじを当たりくじに改ざんした場合どのような判断になるのかは、事例に即し、これまでの裁判例などを検討しながら考えることになるでしょう。
「偽造」や「変造」など、刑事事件では専門用語も多く使われています。
さらにその言葉について法律の条文に詳しく書いてあるわけではなく、それまでの裁判例等から解釈がされていますから、刑事事件については専門家である弁護士に相談することが望ましいといえるでしょう。
滋賀県の刑事事件にお困りの際は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士までご相談ください。