【事例紹介】工事現場で全治2か月の重傷 労災隠しで書類送検された事例①

【事例紹介】工事現場で全治2か月の重傷 労災隠しで書類送検された事例①

警察官に取調べを受ける男性

労働災害があったにもかかわらず、遅滞なく労働基準監督署に報告しなかったとして労働安全衛生法違反の容疑で書類送検された事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

事例

東近江労働基準監督署は19日、労働安全衛生法違反(労災隠し)の疑いで、滋賀県甲賀市の建設業「(中略)」と同社の男性社長(47)を書類送検した。
書類送検容疑は(中略)、滋賀県東近江市小田苅町内の下水道管設置工事現場で、掘削面が崩れて同社の男性従業員(55)が負傷する事故があったにもかかわらず、労基署に遅滞なく報告しなかった疑い。
従業員は腰椎を骨折するなどし、全治2カ月の重傷を負った。昨年12月に社長が労災の相談をし、事故が報告されていないことが分かったという。
(3月19日 京都新聞 「労災隠し疑いで建設業者と社長を書類送検 水道管設置工事で男性が腰椎を骨折」より引用)

労働災害と報告

今回の事例では、従業員が負傷する事故があったにもかかわらず労働基準監督署に遅滞なく報告しなかったとして、労働安全衛生法違反の容疑で書類送検されたようです。
けがを負うほどの事故が起きた場合には労働基準監督署に報告しなければならないのでしょうか。

労働安全衛生規則第97条1項
事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

労働安全衛生規則では、労働災害が起きた場合には、報告書を労働基準監督署長に提出しなければならないと定められています。
つまり、労働中に事故が起きてけがをした場合には、労働基準監督署に報告しなければならないということです。

なぜ今回の事例では労働安全衛生規則違反ではなく、労働安全衛生法違反の容疑がかけられているのでしょうか。
実は、労働安全衛生規則には罰則規定がなく、労働災害の報告をしなかった場合の罰則規定は労働安全衛生法で定められているのです。

では、労働安全衛生法をみていきましょう。

労働安全衛生法第100条1項
厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

労働安全衛生法第100条1項の規定により、労働基準監督署長などは、労働安全衛生法を施行するために必要がある場合には、厚生労働省令で定められているように必要な事項を報告させることができます。
労働安全衛生規則は厚生労働省令にあたりますし、労働安全衛生法は労働者の安全と健康の確保を目的としており、事故の報告は再発防止に取り組むために必要なことでしょうから、労働安全衛生規則で規定されているように労働災害が起きた際は報告をしなければならないと考えられます。

労働安全衛生法第120条
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
5号 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者

労働災害が起きたにもかかわらず報告しなかった場合には、労働安全衛生法違反が成立する可能性があります。
労災隠しとは労働災害が起きたことを報告せずに隠しておくことをいいますので、労災隠しをした場合には、労働安全衛生法違反の罪に問われる可能性が高いといえます。

今回の事例では、工事現場で従業員が負傷する事故があったにもかかわらず労働基準監督署に遅滞なく報告しなかったと報道されています。
労働災害が起きた場合には報告が必要ですので、実際に報告をしていないのであれば、今回の事例では労働安全衛生法違反が成立する可能性があります。

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刑事事件の豊富な弁護経験を持つ弁護士に相談をして今後の見通しを立てることで、より良い結果を得られるかもしれません。
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