不注意で起こした火事は何罪に?
不注意で起こした火事は何罪に問われるのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県東近江市に住んでいるAさんは喫煙者であり、よく自宅の自室でたばこを吸っていました。
ある日、自室の灰皿にたばこの吸い殻が溜まってきたので、Aさんは今吸っているたばこをもみ消し、灰皿にあった吸い殻とまとめて自室のごみ箱に捨てました。
自室を出てリビングで家族とテレビを観ていたAさんは、焦げ臭いにおいを感じました。
気になってリビングを出てみると、Aさんの部屋のドアが燃えており、火は勢いを増していました。
Aさんが急いで消防に通報し、消防隊が駆け付けて消火活動をしたことでなんとか火は消し止められましたが、Aさんの自宅は半焼し、Aさんは滋賀県東近江警察署で取調べを受けることになりました。
どうやらAさんのたばこの火がきちんと消えていなかったことが火事の原因のようでした。
Aさんは、自分の不注意で火事を起こしてしまった時、どういった犯罪に問われるのだろうかと不安になり、弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです)
・失火罪
今回のAさんの事例のように、不注意で火事を起こしてしまったようなケースでは、失火罪が問題になることが多いです。
失火罪は刑法第116条に規定されている犯罪です。
刑法第116条(失火罪)
第1項 失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第109条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。
第2項 失火により、第109条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第110条に規定する物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者も、前項と同様とする。
「失火」とは、過失により出火させることをいいます。
少し注意を払えば出火によって物を焼損させることが予見できたのに予見しなかった場合や、焼損を回避する防止策を講じることができたのにしなかった場合で故意のないときに、過失による出火および焼損、すなわち失火の事実が認められることになります。
過失とは不注意のことを指し、簡単に言えば不注意で火事を起こした場合にはこの「失火」に当たるということになります。
刑法第116条第1項の条文にある「第108条に規定する物」「他人の所有に係る第109条に規定する物」とは、それぞれ現住建造物等と他人が所有する非現住建造物等を指します。
現住建造物等とは、現に人が住居として使用していたり人が現在する建造物、汽車、電車、艦船または鉱坑を指します。
対して刑法第116条第2項では、自己が所有する非現住建造物等と建造物等以外の物を失火によって焼損させた場合について規定されています。
ここで、失火罪で注意しなければいけないことの1つとして、刑法第116条第1項と第2項とでは、客体となるもの以外に「公共の危険」の発生の有無という条件が異なる部分があることが挙げられます。
条文の第1項で規定されている客体を焼損させた場合は、人の生命や身体が侵害される危険性が高かったり、焼損した物の財産的価値が高かったり違法性が大きかったりすることなどから、これらを焼損させた時点で既に公共の危険が発生したものと考えられます。
一方、条文の第2項に規定されている客体は、建造物等であっても、行為者が所有しかつ人が住居として使用していなかったり現に人がいるわけではないものや、そもそも建造物等ではないものなので、第1項で規定された客体のように焼損させた場合でも、ただちに人の生命や身体が脅かされるリスクは相対的に低いものと考えられています。
このような焼損される客体の性質の違いから、第2項では現実に公共の危険が発生することが失火罪を成立させる要素として要求されているのです。
今回のAさんのケースを考えてみましょう。
例えば、Aさんがたばこの火をもみ消した際にちゃんと火が消えたことを確認せずゴミ箱に吸い殻を捨てたというような事情があれば、Aさんの不注意によって火事が起きた=過失による出火があると言えそうです。
さらに、焼損された客体はAさんの自宅ですから、現に人が住居としている建造物となり、これは現住建造物に当たります。
よって、Aさんは刑法第116条第1項の失火罪に問われる可能性があるといえるでしょう。
・業務上失火罪と重過失失火罪
失火は過失による出火とその火力による物の焼損によって認められますが、過失の程度が重大である場合や、業務上必要な注意を怠った結果として出火と焼損が発生した場合には、先ほど挙げた単純な失火罪ではなく重過失失火罪もしくは業務上出火等罪(刑法第117条の2)に問われる可能性があります。
重過失失火罪もしくは業務上出火等罪の法定刑は3年以下の禁錮または150万円以下の罰金です。
どのような場合に過失の程度が重大であるといえるのかというと、例えば出火した際に人命や人身に重大な結果が生じる危険性が高かったり、この他公共の危険を生じる危険性がかなり高いような状況で特に慎重な態度をとることが必要であったにもかかわらずその必要な慎重さを欠いて出火させてしまった場合などが挙げられます。
今回の事例でいえば、たばこの火の不始末が火事の主要な原因の1つとして世間に知られていることや、たばこをきちんと消すこととその確認をすることの容易さなどから、Aさんの場合でも失火罪ではなく重過失失火罪が適用される可能性は十分にあります。
重過失失火罪になると禁錮刑の可能性がありますので、刑事収容施設に長期間入らなければならないかもしれません。
その場合、罰金刑と比べて社会復帰の困難さや周囲から向けられる視線などで刑そのものが与える以上の不利益を被ることになるおそれもあります。
過失の事実をどう評価するかは法律の専門家であっても難しい論点で、失火罪を含む過失犯では特に慎重に検討されなければなりません。
だからこそ、不注意で火事を起こしてしまって刑事事件となった場合には、早期に専門家である弁護士に相談することが重要なのです。
刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、不注意で火事を起こして失火罪に問われている方のご相談・ご依頼も受け付けています。
弁護士の話を聞くことで刑事手続への理解が深まり、不安の軽減なども期待できます。
まずはお気軽にご相談ください。