カラーコピーは文書偽造罪?①
カラーコピーと文書偽造罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県近江八幡市に住んでいるAさんは、医師の診断を受けて睡眠薬を処方されました。
しかしAさんは、「自分の症状にはこれだけの睡眠薬では不足している。もっと睡眠薬をもらわなければならない」と考え、医師からもらった処方箋を自宅で何枚かカラーコピーし、それぞれ別の薬局に提出して睡眠薬を受け取り、代金を支払いました。
その後、全く同じ内容の処方箋がカラーコピーされて提出されていることに近隣の薬局が気づき、滋賀県近江八幡警察署に相談されました。
そして滋賀県近江八幡警察署の捜査の結果、Aさんは詐欺罪の容疑で逮捕されることとなりました。
(※令和元年10月23日京都新聞配信記事(24日に更新)を基にしたフィクションです。)
・私文書偽造罪
前回の記事では、同じ事例のAさんについて、詐欺罪が成立することについて触れました。
ここで、Aさんは医師からもらった処方箋をカラーコピーし、それを薬局に提出しています。
Aさんは、いわば偽物の処方箋を利用して詐欺行為をしていたわけですが、このカラーコピーをした偽物の処方箋については、文書偽造罪や偽造文書行使罪に問われることはないのでしょうか。
今回からは、この点について検討していきます。
まず、そもそも文書偽造罪とはどういった犯罪なのでしょうか。
条文を確認してみましょう。
刑法159条(私文書偽造等)
1項 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
2項 他人が押印し又は署名した権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を変造した者も、前項と同様とする。
3項 前二項に規定するもののほか、権利、義務又は事実証明に関する文書又は図画を偽造し、又は変造した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法159条の1項は有印私文書偽造罪、2項は有印私文書変造罪、3項は無印私文書偽造罪・無印私文書変造罪と呼ばれる犯罪です。
偽造・変造した文書が公文書(公務員や公の機関が作成する文書)である場合には、私文書偽造罪とは別に刑法155条に規定されている公文書偽造罪・公文書変造罪という犯罪になり、公文書以外の文書を偽造・変造した場合に前述した私文書偽造罪・私文書変造罪となるのです。
今回のケースの「処方箋」も、医師等の印章(いわゆるハンコ)が使用されており、その患者に処方箋にある薬が必要であるという医師の診断という事実を証明する文書ですから、「私文書」となるでしょう(ただし、公立病院であった場合には公務員が作成する書類となりますので、「私文書」ではなく「公文書」となります。)。
そのため、もしもAさんが「処方箋」を「偽造」したとされれば、私文書偽造罪に問われることになりそうです。
・私文書偽造罪の「偽造」と「変造」
多くの方のイメージでは、何かの文書の偽物を作れば私文書偽造罪の「偽造」にあたり、私文書偽造罪にあたるのではないかと想像されるのではないでしょうか。
しかし、私文書偽造罪の「偽造」は単に偽物、という定義ではないのです。
さらに、先ほど挙げた刑法159条の中には、私文書偽造罪だけでなく私文書変造罪という犯罪も出てきました。
これらの定義、違いは一体どういったものなのでしょうか。
まず、「偽造」には、「有形偽造」と「無形偽造」と呼ばれる2つの種類の偽造があります。
「有形偽造」とは、その文書を作成する権限を持たない者が、他人の名義を同意を得ずに使用して文書を作成することとされています。
つまり、その文書の名義人と作成した人が異なっている=文書の名義人と作成者の人格の同一性に齟齬がある文書を作成することが「有形偽造」と呼ばれる「偽造」です。
対して、「無形偽造」とは、その文書を作成する権限を持つ者が、虚偽の内容の文書を作成することとされています。
つまり、「無形偽造」の場合、「有形偽造」とは違って名義人と作成者は一致しますが、その文書の内容が偽られているということになります。
このうち、私文書偽造罪のいう「偽造」は、原則的には「有形偽造」を指すとされています。
「無形偽造」については、刑法156条の虚偽公文書作成罪や、刑法160条の虚偽診断書作成罪などで処罰が規定されており、私文書偽造罪や公文書偽造罪では裁かれません。
こうした「偽造」に対して、「変造」とは、すでに作成されている真正な文書の本質的でない部分に、その文書に手を加える権限のない者が不正に手を加えることで新たに別の価値を作り出すことを指します。
文書の本質的な部分を変えてしまった場合には、「変造」ではなく「偽造」とされることもあります。
このように、単に偽物の文書を作るだけでは、私文書偽造罪の「偽造」とはならないことや、態様によっては私文書偽造罪になるのか私文書変造罪となるのかが異なってくることに注意が必要です。
ですが、これらは専門知識や経験に基づいて見通しを立てることができるものであり、逮捕されてしまった本人やその周囲のご家族などの方々が全て自分たちだけで判断することは難しいでしょう。
だからこそ、文書偽造事件にお悩みの際は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
次回の記事では、Aさんに文書偽造罪は成立しないのかどうか具体的に照らし合わせて検討していきます。