ペットの横領・窃盗事件①

ペットの横領・窃盗事件①

ペット横領窃盗事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

滋賀県草津市に住むAさん(72歳)は、親しくしていた近所のVさんから、「海外旅行に行っている間だけ、ペットの猫をAさんの家で預かってほしい」と頼まれました。
Aさんはその頼みを聞き、Vさんが海外旅行に行く1か月の間、Vさんのペットである猫Xを預かることになりました。
すると、ちょうど猫を預かり始めた頃、近所に住むAさんの孫がペットとして猫を欲しがっていると聞きました。
そこでAさんは、Vさんから預かっていた猫を孫の住む家に連れて行き、「ペットにしていいよ」と言いました。
AさんVさんが戻ってくる前に猫を自分の家に戻せばいいと思っていましたが、孫が猫をかわいがっていたようだったので、ついそのことを忘れてしまっていました。
しかし、その後、Vさんが帰宅してAさんに連絡しても一向にペットの猫を返してくれないことを不審に思い、Vさんが滋賀県草津警察署に相談。
Aさんは横領罪の容疑で話を聞かれることとなってしまいました。
(※この事例はフィクションです。)

・横領罪

今回Aさんに容疑がかかっている犯罪は、刑法252条に規定されている横領罪です。

刑法252条(横領罪)
自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。

この横領罪は、業務上横領罪と区別するために「単純横領罪」などとも呼ばれることがあります。
横領罪の条文だけ見ると、非常にシンプルです。
しかし、この「自己の占有する他人の物を横領」という言葉の定義は実はとても複雑なものです。

まず、「自己の占有する他人の物」ですが、「占有」とは、事実上の支配だけでなく、法律上の支配も含まれます。
つまり、横領罪の客体は、「自分の支配下にある他人の物」ということになります。
ここで、横領罪の成立には、この「占有」=その物に対する支配が、その物の所有者と行為者(横領罪の被疑者)の間の委託信任関係に基づくものであることが必要です。
委託とは、契約等の法律行為や事務処理等を他の人に依頼することです。
すなわち、横領罪の成立には「その物の所有者に依頼されてその物を支配していた」という状況が必要となるのです。

そして、「横領」とは、委託された物について不法領得の意思を実現するすべての行為をいうとされています。
過去の判例では、「不法領得の意思」について、「他人の物の占有者が痛くの任務に背いてその物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思」であるとされています(最判昭和24.3.8)。

今回のAさんについて考えてみましょう。
今回のAさんは、Vさんから海外旅行の間、Aさんの家でペットの猫を預かるように依頼されています。
Aさんはこの依頼によってペットの猫を預かっていることから、委託信任関係によってペットの猫を管理・支配しているといえます。
ここで、ペットの猫が「物」なのか、と気になる方もいらっしゃるかもしれません。
横領罪の「物」とは、財物を指します。
財物には動物も含まれるため、ペットの猫も横領罪の対象となる「物」となるのです。
ですから、Aさんの預かったペットの猫は「自己の占有する他人の物」なのです。

そのペットの猫をAさんは自分の孫に勝手に預けてしまっています。
Aさんが委託されたのはあくまでAさんの家でVさんの海外旅行期間中にペットの猫を預かることであり、この行為はその範囲を超えてしまっており、Vさんの委託した内容に背くものです。
さらに、ペットの猫をさらに他人に預けることは、所有者でなければできない処分でしょう。
そのため、Aさんは「他人の物の占有者が痛くの任務に背いてその物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思」を実現した=横領をしたと考えられるのです。

横領罪と聞くと、お金の絡んだ複雑な犯罪で、身近には起こらないようなイメージもあるかもしれません。
ですが、Aさんのケースのように、横領事件は身近でも起きる可能性のある犯罪です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、こうした横領事件についてのご相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。

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