自宅に放火して逮捕された事件に対して適用される法令について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
◇自宅に放火した事件◇
滋賀県草津市に住んでいるAさんは、何もかもが嫌になり、死んでしまいたいと考えるようになりました。
その結果、Aさんは、自分の住んでいるマンションの一室に放火しました。
火は燃え広がってAさんの部屋は全焼することになったものの、マンションの他の住民が早期に通報したことで、Aさんを含め死傷者を出すことなく鎮火しました。
そして、Aさんは滋賀県草津警察署に現住建造物等放火罪の容疑で逮捕されることとなりました。
遠方に住んでいたAさんの親類は、報道によってAさんの起こした放火事件とその逮捕を知りました。
驚いたAさんの親類は、インターネットで刑事事件について調べ、とにかく弁護士に面会に行ってもらった方がよいと判断し、滋賀県の刑事事件に対応している弁護士の所属する法律事務所に連絡を取ってみることにしました。
(※フィクションです。)
◇建造物に対する放火◇
前回の記事で確認したとおり、放火罪には3つの種類があります。
では、自宅への放火事件の場合、どの放火罪が成立することになるのでしょうか。
放火の対象となる自宅は建造物となるでしょうから、建造物への放火に関連している放火罪を見ながら検討していきましょう。
建造物に対する放火の罪は以下のとおりです。
刑法第108条(現住建造物等放火罪)
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法第109条(非現住建造物等放火罪)
第1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。
第2項 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。
ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。
◇現住建造物等放火罪が適用されるケース◇
まさにAさんの事件がこれに該当します。
仮にAさんの家が一軒家で、Aさんしか居住していなかった場合については、後述しますが、Aさんの自宅はマンションの一室です。
マンションは、一棟に複数世帯が居住しているので、マンション全体が一つの建造物と考えられます。
つまり現住建造物等放火罪でいうところの、「現に人が住居に使用」に該当することは間違いありませんし、「現に人がいる」に該当する可能性も非常に高いでしょう。
◇非現住建造物等放火罪が適用されるケース◇
現住建造物等放火罪の「現に人が…」という部分の「人」には放火した犯人自身は含まないと考えられています。
ですから、もしも自宅への放火であったとしても、放火した犯人が1人暮らしする一軒家であり、そこに他の人がいなければ現住建造物等放火罪とはならず、非現住建造物等放火罪となる可能性が出てくるのです。
またマンション等の集合住宅であっても、その建物内の他の部屋が全て空き部屋で誰も住んでおらず、建物内に誰もいなかった場合は非現住建造物等放火罪が適用されることとなります。
◇放火の罪に問われない場合も・・・◇
非現住建造物等放火罪が適用されるケースについて解説しましたが、非現住建造物等放火罪は、放火した建造物が自己所有で、かつ公共の危険が発生していなければ刑事罰の対象となりません。
つまり、自分が所有する一軒家に、自分一人しか居ない時に放火し、更にその火事によって公共の危険が生じなかった場合は刑事罰を免れるのです。
ただし、刑法第115条は以下の内容を規定しています
刑法第115条
第109条第1項及び第110条第1項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。
つまり、ローンが残っていたり火災保険に入っていたりしている自己所有の建造物に放火した場合は、他人所有の建造物に放火した時と同じ刑事罰が科せられることとなるので注意が必要です。
このように、自宅への放火事件でも
・自宅が現住建造物に該当するか否か
・自宅の所有者が誰なのか
・自宅の状況(刑法第115条に該当するか否か)
・火災によって公共の危険が生じたか否か
によって適用される法律が異なってくるのです。
こうした判断を法律知識のない状態で行うことは非常に難しいため、放火の罪で警察等の捜査を受けておられる方、ご家族、ご友人が放火の罪で警察に逮捕されてしまった方は、一刻も早く、刑事事件に強い弁護士にご相談することをお勧めします。
放火事件に関するお問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881(24時間受付中)までお気軽にお電話ください。