【事例紹介】滋賀県長浜市 グラウンドに侵入して建造物侵入罪
滋賀県長浜市にある中学校のグラウンドで車を走行させ、建造物侵入罪で逮捕された事例を弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
8日午前9時5分ごろ、滋賀県長浜市高田町の長浜西中で、「不審な車がグラウンドを走り回り、横転した」と110番があった。生徒らにけが人はなかった。
滋賀県警長浜署は、建造物侵入の疑いで、現場にいた運転者の同市の女(48)を現行犯逮捕した。
(後略)
(9月8日 京都新聞 「中学校のグラウンド「不審な車走り回り、横転」 侵入容疑で48歳の女逮捕」より引用)
建造物侵入罪
建造物侵入罪は、刑法第130条で規定されています。
刑法第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
刑法第130条では建造物以外のものへの侵入に対する犯罪も規定されており、住居、邸宅、建造物、艦船に侵入した場合にも刑法第130条に該当することになります。
刑法第130条で定められる建造物は、日々生活を行う場所(住居)や、人が住むために造られた住居以外の建造物(邸宅)を除いた建造物を指します。
今回事件があった学校のほか、工場や商業施設、会社などがこの建造物にあたります。
では、今回の事例に当てはめて考えていきましょう。
今回の事例ではグラウンドを車が走り回り、運転していた女性が建造物侵入罪で逮捕されています。
グラウンドは日々生活を行う場所ではありませんし、人が住むための建物でもありませんので住宅や邸宅にあたらないことがわかります。
次に、グラウンドが刑法第130条でいう「建造物」にあたるのという問題ですが、そもそもグラウンドは「建造物」といえるのでしょうか。
こうした部分から、今回の事例の女性が建造物侵入罪で逮捕されたことに疑問を持った方も多いと思います。
では、なぜグラウンドへの侵入が建造物侵入罪にあたるのかを1つの判例を用いて解説していきます。
ご紹介するのは、その裁判の被告人らの行為が建造物侵入罪にあたるのかについて争われた事件の判例です。
この事件では、被告人らは、ほか数十名の学生らとともに、正門を閉鎖し通路を金網柵で遮断された部外者以外立ち入り禁止のA構内へ、金網柵を引き倒して乱入しました。
被告人らが侵入した場所は、A建物の通用門からC構内の建物やグラウンドへの通路、並びに駐車場に利用されている土地でした。
この建造物侵入事件の第1審では、被告人両名に懲役3月執行猶予2年に処しましたが、その後の控訴審では建造物侵入罪にあたらないとして無罪を言い渡しました。
その後の上告審で、その土地が、建物に接してその周辺に存在し、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置し、建物の附属地として建物利用のために供されるものであることを明示されれば、囲繞地にあたると裁判官は判断しました。
刑法第130条で規定されている「建造物」には囲繞地が含まれており、囲繞地に侵入した場合は建造物侵入罪が成立します。
今回の被告人らが侵入した土地は、A建物の囲繞地であり建造物侵入罪にあたるため、東京高等裁判所への差し戻しが決まりました。
(昭和51年3月4日 最高裁判所より)
つまり、この判例によると、土地が門や塀などに囲まれていて建物の附属地として使用されていれば囲繞地=建造物侵入罪の対象である「建造物」として認められます。
では、今回の事例のグラウンドは囲繞地にあたるのでしょうか。
事例に当てはめて考えていきましょう。
通常、中学校のグラウンドは門や塀、柵などで囲まれて、外の道路などとは分けられていることが多いでしょう。
また、グラウンドは校舎に接しているでしょうし、校舎の附属地でもあります。
グラウンドでは体育の授業などを行うでしょうから、校舎の附属地として利用されているといえます。
事例のグラウンドは囲繞地としての条件を満たしていますので、囲繞地にあたるだろうと考えられます。
となると、刑法第130条で規定している「建造物」には囲繞地も含まれますので、今回の事例の女性が建造物侵入罪で逮捕されたことは不思議ではないことがわかります。
このようにして、建造物侵入罪のような一般に名前が知られているような犯罪であっても、イメージ通りではないケースが存在します。
刑事事件の知識・経験のある弁護士に相談しておくことで、こうしたイメージとのギャップをなくして刑事手続へ適切に対応できるようになることが期待できます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、在宅捜査を受けている方にも逮捕・勾留されて捜査を受けている方にもご利用いただけるサービスをご用意しています。
建造物侵入事件を含む刑事事件でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。