治療費請求が恐喝罪に?
治療費請求が恐喝罪に問われたケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
~事例~
滋賀県高島市にすむAさんは、滋賀県高島市の路上で、散歩中に、Vさんの運転する車と接触する事故に遭いました。
両者は、示談交渉で、VさんがAさんに対して、令和3年2月末までに、Aさんの治療費100万円を支払う旨合意しました。
しかし、Aさんは、2月末を3カ月過ぎてもVさんからの支払いがなかったことから、何が何でも払ってもらうためにVさん宅に赴きました。
Aさんは、Vさんと対面すると、Vさんの首ネックを掴みながら、「てめぇなめてんのか。はやく100万円払え。さもないと痛い目見るぞ。」と語気強く申し向けました。
これに畏怖したVさんは100万をAさんに支払いました。
その後、Vさんが「Aさんにお金を脅し取られた。滋賀県高島警察署に相談するかもしれない」と話していると噂を聞き、自身の行為にどのような法的問題があるか弁護士へ無料相談しに行きました。
(この事例はフィクションです。)
~恐喝罪と権利行使~
Aさんの行為は、Vさんを脅して金品を手に入れている点で、恐喝罪の成立が問題となります。
刑法第249条
人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
まず①「恐喝して」とは、財物を交付させるための手段として相手方を畏怖させる程度の暴行又は脅迫をすることをいいます。
恐喝罪の手段が相手方を畏怖させるに足りる程度とされているのは、これが相手方の反抗を抑圧するに足りる程度であれば強盗罪(刑法236条)の実行行為に当たるからです。
本件では、AさんはVさんに対して「てめぇなめてんのか。はやく100万円払え。さもないと痛い目見るぞ。」と語気強く申し向けており、この言辞は相手方の犯行を抑圧しないまでも、Vさんの首ネックを掴む暴行と相まって、畏怖させるに足りる程度の脅迫に当たるといえます。
そして、これはVさんから100万円とお車代えをもらうための手段としてなされたものです。
よって、Aさんの行為は「恐喝」にあたるでしょう。
次に「交付させた」とは、恐喝した結果畏怖した相手方の瑕疵ある意思に基づき財物の占有を得ることをいいます。
すなわち、ⅰ被害者による交付行為が必要なだけでなく、ⅱそれと恐喝との間に因果関係が必要とされています。
したがって、恐喝されたものの全く畏怖せず、加害者に同情して財物を交付した場合には、恐喝未遂罪が成立します。
本件では、Aさんは、上記Aさんの言辞が原因で(ⅱ)畏怖したVさんから100万円を受け取っています(ⅰ)。
よって、「交付させた」といえます
以上からAさんには恐喝罪が成立すると考えられます。
しかし、今回のAさんは、そもそも交通事故による治療費の費用の支払を受けられなかったことから上記行為に及んでおり、上記行為は、正当な賠償請求として許されるとも考えられます。
この点、判例(最判30年10月14日)は、他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲でありかつその方法が社会通念上一般に認容すべきものと認められる程度を超えない場合には違法とはならず、右の範囲程度を超える場合に違法となり、恐喝罪が成立するとしています。
これは違法とは社会通念上相当性を欠く行為をいうのであり、権利の行使であっても行使方法等によっては、社会的相当性を欠く場合があることを理由にしていると考えられます。
本件では、AさんがVさんに支払いを迫った額は100万円であり、これは上述の通り交通事故に関して生じた治療費の額に当たるので、Aさんのもつ治療費の請求権利内の額でしょう。
しかし、AさんがVさんに対して行った行為は、Vさんの首ネックを掴みつつ「痛い目見るぞ。」と語気強く申し向けたものであり、いくらVさんが約束の金額を3ヵ月支払わなかったとはいえ、やりすぎであると捉えられても不思議はありません。
そうなると、Aさんの権利行使は違法とされ、恐喝罪が成立する可能性が出てくるのです。
治療費請求など、当然の権利だと思っているようなことでも、請求のやり方を間違えれば、重大な犯罪になりえます。
治療費請求などから刑事事件に発展しそうだ、刑事事件に発展してしまって困っているといった場合には、早期に弁護士に相談することがおすすめです。
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