いじめで髪を切って少年事件に②
~前回からの流れ~
Aさんは滋賀県大津市の高校に通う15歳ですが、同級生のVさんに対していじめをしていました。
ある日、Aさんは、いじめをしている最中、
①Vさんの髪の毛をはさみで切ってしまいました。
②Vさんの髪の毛を手で引っ張り、抜いてしまいました。
帰宅したVさんがことのあらましを両親に相談したことから、Vさんの両親は滋賀県大津北警察署に相談し、Aさんは滋賀県大津北警察署に呼び出され、取調べを受けることになりました。
Aさんの両親は警察から話を聞き、まさかAさんが少年事件の被疑者となるとは思いもよらず、弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・傷害罪の「傷害」
今回問題となる犯罪は、刑法の暴行罪・傷害罪です。
刑法204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法208条(暴行罪)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
前回の記事では、AさんがVさんの髪の毛をはさみで切ったり抜いたりする行為は、「暴行」となるだろうという点に触れました。
ですから、髪の毛を切る/抜くといった行為が、「人の身体を傷害」しているかどうかという判断によって、Aさんに成立する犯罪が暴行罪なのか傷害罪なのか決まることになります。
今回のようなケースの場合、どういった判断になるのでしょうか。
ここで、傷害罪における「傷害」とは、一般に人の生理的機能に障害を加えることであると解釈されています。
生理的機能とは、簡単に言えば人が生きていくために必要とされる機能をいいます。
つまり、その機能に害が生じることをしてしまった場合、傷害罪のいう「傷害」を与えたことになるのです。
例えば、よく傷害事件でイメージされる、人を殴って骨折させてしまったようなケースの場合には、人が生きていくために必要な体の一部分を折って傷つけていることになります。
この考え方に立って今回のケースを考えてみましょう。
①髪の毛を切る行為は暴行罪?傷害罪?
先ほど触れた考え方に立って考えれば、Aさんが①の行為をした際、Vさんは髪の毛をはさみで切断されています。
しかし、髪の毛の毛の部分は必ずしも人が生きていくために必要なものではなく、神経や血管が通っているわけでもありません。
こうしたことから、髪の毛の切断によって人の生理的機能が害されたとは言いにくいでしょう。
ですから、①のケースの場合、Aさんには暴行罪が成立するにとどまり、傷害罪は成立しない可能性があるでしょう。
②髪の毛を抜く行為は暴行罪?傷害罪?
①も②も同じ行為のように思えますが、②の場合、髪の毛を根元から抜いていることから、皮膚や毛根を傷つけていることが考えられます。
皮膚や毛根は直に人の身体とくっついていたりそのものであったりする部分ですから、それがが傷ついているということは人の生理的機能を害していると考えられます。
ですから、②のケースについては、傷害罪の「傷害」が発生していると考えられ、傷害罪が認められると考えられます。
なお、学説によっては①のケースでも傷害罪の成立を認めるものも見られ、実際の裁判でも結果が分かれることもあります。
このように、刑事事件・少年事件では、「傷害」という定義ひとつとっても非常に複雑で、どうでもよいように思えるほんの小さな違いが成立する犯罪を分けたりします。
こうした判断は専門家でも悩むことが多いため、一般の方のみで見通しや対策を立てることはより困難であるといえるでしょう。
だからこそ、早めに法律の専門家である弁護士に事件の詳細を相談し、分かりやすい説明やアドバイスをもらうことが重要なのです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件・少年事件専門の弁護士が初回無料法律相談を行っています。
逮捕・勾留されてしまっている方向けの初回接見サービスもございますので、滋賀県の刑事事件・少年事件にお困りの際は、遠慮なくお問い合わせください(0120-631-881)。