パートタイマーでもインサイダー取引になる?
パートタイマーでもインサイダー取引になるのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
Aさんは、滋賀県米原市に本社を構えるV社で、清掃員のパートタイマーとして働いていました。
ある日、AさんがV社の社内を清掃していた最中に目についた資料から、V社が翌月に独自の技術を使った新製品を発表することを知りました。
Aさんは、新製品が発表されればV社の株価が値上がりするだろうと考え、新製品の発表前にV社の株式の買い付けを行いました。
そして、Aさんは、V社が新製品を発表した後に値上がりしたV社の株式を売却し、多額の利益を得ることになりました。
しかしその後、Aさんがインサイダー取引を行ったことが発覚。
Aさんは滋賀県米原警察署に金商法違反の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんは、「ただのパートタイマーだったのにインサイダー取引になるのか」と疑問に思い、家族の依頼によって接見に訪れた弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・インサイダー取引とは?
インサイダー取引とは、会社関係者が上場会社等の業務等に関わる「重要事実」を、その職務に関して知りながら、その「重要事実」の公表前にその会社の株等の売買等を行うことを指します。
大まかには、会社関係者が株価に重大な影響を与えるような事実を公表前に知りながら株式の売買を行うことがインサイダー取引になるというイメージです。
インサイダー取引は、日本語で内部者取引とも呼ばれます。
・パートタイマーでもインサイダー取引に?
このインサイダー取引については、金商法(正式名称「金融商品取引法」)という法律で禁止されています。
金商法第166条第1項
次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(当該上場会社等の子会社に係る会社関係者(当該上場会社等に係る会社関係者に該当する者を除く。)については、当該子会社の業務等に関する重要事実であつて、次項第5号から第8号までに規定するものに限る。以下同じ。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継(合併又は分割により承継させ、又は承継することをいう。)又はデリバティブ取引(以下この条、第167条の2第1項、第175条の2第1項及び第197条の2第14号において「売買等」という。)をしてはならない。
当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を次の各号に定めるところにより知つた会社関係者であつて、当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後1年以内のものについても、同様とする。
第1号 当該上場会社等(当該上場会社等の親会社及び子会社並びに当該上場会社等が上場投資法人等である場合における当該上場会社等の資産運用会社及びその特定関係法人を含む。以下この項において同じ。)の役員(会計参与が法人であるときは、その社員)、代理人、使用人その他の従業者(以下この条及び次条において「役員等」という。) その者の職務に関し知つたとき。
金商法第166条第1項では、「会社関係者」が「上場会社等に係る業務等に関する重要事実」を知った場合、その「重要事実」が公表された後でなければ、該当する会社等の株式の売買等をしてはいけないとされています。
つまり、「会社関係者」が「重要事実」公表前に該当する会社等の株式を売買することがインサイダー取引となり、この金商法第166条第1項に違反する犯罪となるということです。
では、その対象となる「会社関係者」とはどういった人を指しているのか、「重要事実」を知るとはどういった状況を指しているのかというと、続く第1号~第5号に記載があります。
第1号では、「会社関係者」について、「当該上場会社等(中略)の役員(中略)、代理人、使用人その他の従業者」としています。
会社の「使用人その他従業者」となっていることから、この「会社関係者」の中には、会社のいわゆる正社員だけでなく、Aさんのようなパートタイマーやアルバイトの従業員も含まれていることが分かります。
さらに、その「使用人その他従業員」について、どのような業務についているのかといった制限もされていませんから、Aさんのような清掃員であっても「会社関係者」となり得ることが分かります。
インサイダー取引というと、会社の役員や上役など、会社の中心にいる人が関わる犯罪というイメージが強いかもしれませんが、Aさんのようなパートタイマーであってもインサイダー取引の対象となる可能性があるのです。
そして、金商法第166条第1項第1号では、こうした「使用人その他従業者」などの人が「その者の職務に関し」重要事実を「知ったとき」に、その「重要事実」公表前に当該会社等の株式の売買等をしてはいけないということを定めています。
例えば今回の事例のAさんは、自身の職務である、V社内の清掃中に、V社の新製品についての情報を知っています。
その後、AさんはV社の新製品についての情報が公表される前にV社の株式の売買をしていることから、Aさんには金商法第166条第1項第1号に違反するインサイダー取引の疑いがあるということになるのです。
金商法第166条第1項第1号に違反するインサイダー取引をしてしまった場合の刑罰は、以下のとおりです。
金商法第197条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第13号 第157条、(中略)又は第166条第1項若しくは第3項若しくは第167条第1項若しくは第3項の規定に違反した者
さらに、インサイダー取引で得た財産については没収されます。
金商法第198条の2第1項
次に掲げる財産は、没収する。
ただし、その取得の状況、損害賠償の履行の状況その他の事情に照らし、当該財産の全部又は一部を没収することが相当でないときは、これを没収しないことができる。
第1号 第197条第1項第5号若しくは第6号若しくは第2項又は第197条の2第13号の罪の犯罪行為により得た財産
インサイダー取引というと、日常生活とは関わりの薄い犯罪のように思えますが、実は誰でも関わり得る犯罪です。
そして、インサイダー取引による金商法違反は、上述の通り、とても重い刑罰が設定されています。
だからこそ、インサイダー取引事件の当事者となってしまった場合には、早期に弁護士に相談・依頼することが重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士が、事件の始まりから終わりまでフルサポートします。
インサイダー取引を含む刑事事件にお困りの際は、お早めに弊所弁護士までご相談下さい。