窃盗後に暴行してしまったら
窃盗後に暴行してしまったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
~事例~
滋賀県長浜市在住のAさんは、近所の宝石店に侵入し宝石を盗もうと計画して、下見をするなどの準備をしました。
計画実行の当日に、Aさんは予定通り深夜の宝石店に侵入しました。
ところが、Aさんが宝石を手にしたところ、Aさんは、宝石店を警備中の警備員Vさんに犯行現場を発見されてしまいました。
手にしていた宝石を慌ててカバンに入れて逃げようとするAさんは、どうにか逃げ切ろうと、自分を捕まえようとして手を伸ばしてきたVさんに対して突き飛ばすなどの暴行を加え、Vさんを転倒させました。
そして、Aさんは、Vさんが倒れている間に宝石を手にして宝石店を抜け出しました。
Aさんは予定通り宝石を手に入れたものの、滋賀県木之本警察署が捜査を開始したという噂を聞きつけて不安に思ったため、自分は今後どうなるのか弁護士に相談してみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・強盗罪と事後強盗罪
今回のAさんは、宝石店に窃盗に入った際、自分を捕まえようとする警備員Vさんを突き飛ばすなどしています。
この行為には、刑法の「事後強盗罪」(刑法第238条)が成立する可能性があります。
「Aさんは窃盗行為をするために宝石店に入ったのに、強盗罪が成立するのか?」と不思議に思う方もいらっしゃるでしょう。
まずは、窃盗罪・強盗罪・事後強盗罪の条文を確認してみましょう。
刑法第235条(窃盗罪)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法第236条第1項(強盗罪)
暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。
刑法第238条(事後強盗罪)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
まず、Aさんが宝石店で宝石をカバンに入れた行為については窃盗罪が成立するでしょう。
Aさんは宝石を自分のカバンの中に勝手に入れていますが、これは宝石の本来の持ち主である宝石店の意思に反して、宝石の支配・管理を自分の下におくための行為と考えられるからです。
つまり、この時点でAさんは窃盗行為をした者であると考えられます。
次に、刑法の事後強盗罪の条文を見てみましょう。
事後強盗罪の主体となる人は「窃盗」と表されていますが、この「窃盗」とは、窃盗罪もしくは窃盗未遂罪を犯した人のことを指しています。
つまり、今回のAさんは、窃盗罪にあたる行為をしている人なので、事後強盗罪の対象となります。
事後強盗罪では、この「窃盗」が、「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたとき」に、「強盗」=強盗罪として扱うことを定めています。
つまり、窃盗犯が、盗んだ物を取り返されたり、自分がつかまったり、証拠を隠滅したりするために、暴行や脅迫をした場合、事後強盗罪が成立し、刑法第236条の強盗罪と同じように扱われるということになるのです。
このときの暴行・脅迫については、強盗罪の要件である暴行・脅迫が相手の反抗を抑圧するに足りる程度の強さとされていることから、強盗罪の暴行・脅迫と同じ程度の強さが必要であると考えられています。
また、この暴行・脅迫の相手は、盗んだ物の持ち主に限らず、第三者(例えば窃盗の犯行を目撃した人や、窃盗を止めようとした第三者)であってもよいとされています。
そして、この暴行・脅迫はあくまで窃盗の機会に行われたものでなくてはならず、例えば窃盗犯が逃走した後に全く別の事情によって喧嘩になった人に暴行を加えたとしても、それは事後強盗罪とはなりません。
今回のAさんの事例では、窃盗犯であるAさんが、自分が捕まることを避けるために、警備員のVさんに暴行を加えています。
Vさんが転倒しているほどの強さの暴行であることから、相手の抵抗を抑圧するに足りる程度の強さの暴行であったと考えることができます。
こうしたことから、Aさんには事後強盗罪が成立すると考えられるのです。
ここでさらに注意が必要なのは、もしもVさんがAさんの暴行によって怪我をしていた場合には、事後強盗罪よりもさらに重い、強盗致傷罪が成立するということです。
刑法第240罪(強盗致死傷罪)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
強盗致傷罪となると、刑罰には無期懲役が含まれることになり、裁判手続きも裁判員裁判となるため、より慎重な対応が求められることになります。
もちろん、相手が怪我をしていなかった場合でも、強盗罪は非常に重い刑罰の設定されている犯罪ですから、慎重かつ迅速に対応をすることが必要です。
まずは刑事事件のプロである弁護士に相談するなどして、サポートを受けることが望ましいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士が事後強盗罪などの重大犯罪にも対応しています。
まずはお気軽にご相談ください。