滋賀県高島市で落書き事件
滋賀県高島市での落書き事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【事件】
滋賀県高島市に住むAさんは,近隣にラブホテルが建設されることを知り,その建設に反対していました。
反対むなしく工事は完了しましたが,快く思わないAさんはそのラブホテルを取り囲む塀にラッカースプレーで「わいせつ物」「景観を壊すな」などと毎晩およそ8カ所に落書きしました。
ある日,ラブホテルの管理者から通報を受けた滋賀県高島警察署の警察官がパトロールしていると,Aさんが落書きを行っていたのでAさんを建造物損壊罪の現行犯逮捕しました。
(フィクションです)
【建造物損壊罪】
建造物損壊罪は,他人の建造物を損壊した場合に成立する犯罪で,法定刑は5年以下の懲役です(刑法第260条)。
類似の犯罪である器物損壊罪(刑法第261条)の法定刑が3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料とされているのと比較して,建造物損壊罪にはより重い法定刑が規定されています。
また,器物損壊罪は親告罪で告訴がなければ起訴されませんが,建造物損壊罪は非親告罪ですので告訴がなくとも起訴される可能性があります。
以下,少し詳しく建造物損壊罪について解説していきます。
建造物損壊罪にいう建造物とは,家屋その他これに類似する建築物をいい,屋根があって壁または柱により支持されて土地に定着し,少なくともその内部に人が出入りできるものを指します。
屋根瓦は建造物の一部となり得ますが,雨戸や板戸,窓ガラスなど損壊しなくても自由に取り外すことのできるものは建造物の一部とはなりません。
ここで,建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体になるかどうかの判断基準について,判例(最決平成19・3・20刑集61巻2号66頁)は,「建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべき」としています。
また,この判例で問題とされた住居の玄関ドアは,外壁と接続し,下界との遮断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしていることから建造物損壊罪の客体に当たるとし,「適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても,この結論は左右されない」としました。
よって,例えば窓ガラスであってもはめ殺しにされているものなど容易に取り外しのできないものはもちろん,公道等に面しているドアや窓も建造物の一部となり得ます。
次に,損壊とは建造物の実質を毀損すること,またはその他の方法によって建造物の使用価値を滅却もしくは減損することを意味します。
建造物の実質を毀損することとは,壁や柱,屋根などを壊すことをいいます。
建造物の使用価値を下げることも損壊に当たるので,窓ガラスの採光を妨げるように目隠しをしたり,建具の開閉ができないようつっかえ棒を挟むことなども損壊となります。
また,建造物の外観を汚すことについて,判例(最判平成18・1・17刑集60巻1号29頁)は,「建物の外観・美観を著しく汚損し,そのままの状態で一般の利用に供することを困難にするとともに,再塗装を要するなど原状回復に相当の困難を生じさせた行為は」建造物損壊罪にいう損壊に当たるとしました。
以上の点を踏まえて,Aさんの事件を見ていきますと,Aさんが落書きしたのはラブホテルを取り囲む塀であって,塀には屋根はもちろん人が出入りすることはできませんので建造物に当たりません。
よって,Aさんが落書きしたことについては建造物損壊罪ではなく器物損壊罪が成立するにとどまるでしょう。
ただし,「わいせつ物」などと書いたその内容によっては侮辱罪(刑法第231条)に当たる可能性もあります。
器物損壊罪も侮辱罪もともに親告罪ですので,被害者との示談の締結が訴追回避や執行猶予の獲得に非常に有効な手段となります。
もし塀や外壁などの不動産への落書き行為で取調べを受けたり逮捕されてしまったら,刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。