SNSでの名誉毀損事件①
SNSでの名誉棄損事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
Aさんは、滋賀県草津市にある勤め先の同僚Vさんとその上司が不倫関係にあることを知りました。
日頃からVさんのことをよく思っていなかったAさんは、Vさんが上司と不倫している旨の書き込みをSNS上にて公開しました。
Vさんはその書き込みに気が付くと、滋賀県草津警察署へ被害届を提出しました。
そして、被害届を受けた滋賀県草津警察署はVさんに対する名誉毀損事件として捜査を開始しました。
滋賀県草津警察署の捜査により、書き込みを行った人物がAさんであることが判明し、滋賀県草津警察署はAさんについて名誉毀損罪の容疑で在宅での捜査を行うこととしました。
(※事例はフィクションです。)
そもそも、今回のAさんが容疑をかけられている名誉毀損罪とはどのような犯罪なのでしょうか。
名誉毀損罪の条文を見てみましょう。
刑法230条1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
・名誉毀損罪と「公然と」の意味
名誉毀損罪の条文にある「公然と」とは、不特定又は多数人が認識し得る状態のことをいいます。
このうち、「不特定」の人とは、相手方が特殊の関係によって限定された範囲に属する者でないことをいいます。
例えば、公開の場所や公道における演説会、雑誌やインターネットで事実を摘示すれば、無関係の人たちがその事実を認識することになるわけですから、「不特定」の人が見るものだといえるでしょう。
一方、「多数人」とは、単なる複数ではなく、相当の多数を意味するものとされています。
つまり、名誉毀損罪においては、特定されていても多数であれば「公然と」という状況であり、不特定であれば少数でも「公然と」という状況となることになります。
もっとも、形式上は公然には当たらない場合、つまり特定かつ少数の場合であっても、それが不特定又は多数人へと伝播する可能性があるときには、「公然と」に当たると判例は解していますから、名誉毀損罪の「公然と」という条件に当てはまるのかどうかの判断にも、専門的な知識や経験が必要となってくるでしょう。
今回のAさんはSNSに書き込みをしていますが、SNSはまさにインターネットがつながっていれば誰でもアクセスできるツールですから、「不特定」又は「多数人」にその書き込みを認識し得る状態にしているといえるでしょう。
すなわち、Aさんは名誉毀損罪の「公然と」という条件を満たしていることになります。
・名誉毀損罪と「事実を適示し」の意味
名誉毀損罪の条文に戻り、次は「事実を摘示」するという言葉に注目してみましょう。
これは、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実を表示することをいいます。
名誉毀損罪における「事実」とは、人格的価値にかかわる事実のみならず、プライバシーに属する事実も含みます。
さらに、摘示された「事実」は、必ずしも非公知のものであることは必要ではなく、公知の事実であっても構いません。
公知といっても、まだ知らない人がいないとはいえず、また、公知によって低下した社会的評価のさらなる悪化の可能性もあるからです。
また、「事実の有無にかかわらず」とあるため、「事実」は真実である必要ではなく、嘘や虚偽の「事実」であっても名誉毀損罪の処罰対象になりますし、逆に言えば本当のことであっても社会的評価を落とす「事実」であれば名誉毀損罪として処罰される可能性があるのです。
「嘘を広められた」「嘘によって誹謗中傷された」ということで名誉毀損罪が成立するイメージのある方もいるかもしれませんが、名誉毀損罪の成立には、基本的には「事実」が本当かどうかは関係ないのです(例外として次回の記事で取り上げる刑法230条の2があります。)。
今回のAさんの事例で考えてみましょう。
不倫をするということは、一般的に倫理に反することであると思われています。
さらに、AさんはVさんが誰と不倫をしているのかも具体的に示しています。
こうしたことから、AさんがSNSで示したVさんの不倫の事実は、人の社会的評価を低下させるに足りる具体的な事実であると考えられそうです。
・名誉毀損罪と「毀損」の意味
それでは、名誉毀損罪の条文にある「名誉を毀損した」とはどういったことを指すのでしょうか。
一般的には、事実を摘示して人の社会的評価が害される危険を生じさせることであるとされています。
そして、ここで注意すべきなのは、名誉毀損罪が成立するには、あくまで人の社会的評価が害される危険が生じればよく、実際に社会的評価が下がったということは必要ないということです。
今回のAさんの事例では、Aさんは不倫という一般的に許されていないことをVさんがしているという事実をSNS上で摘示しています。
一般的に倫理に反すると考えられている不倫をしていると知られれば、Vさんの社会的評価が下がる可能性はあるでしょう。
先述したように、名誉毀損罪では人の社会的評価が下がる危険が生じていれば「毀損」にあたるため、Aさんの行為は名誉毀損行為であると考えられるのです。
このように、名誉毀損罪1つとっても、該当する条文に明記されていない解釈があり、自分の関わっている刑事事件と1つ1つ照らし合わせながら考えていく必要があります。
刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、わかりにくい刑事事件についても弁護士が丁寧にご説明いたしますので、まずは遠慮なくご相談ください。