宝くじの当たりくじ偽造で詐欺・有価証券偽造等事件①
宝くじの当たりくじ偽造で詐欺・有価証券偽造等事件となったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県彦根市に住んでいるAさんは、年末に抽選の行われる宝くじを購入しました。
そして当選番号の発表日、Aさんが当選番号を確認すると、自分の購入した外れの宝くじと3等の当たりくじの番号が1つだけ違っていました。
そこでAさんは、「当選番号をごまかせれば当たりくじということにして当選金をもらえるかもしれない」と思いつき、自分の持っている宝くじの番号部分を当選番号に書き換え、X銀行へ持っていくと当選金への換金を要求しました。
しかし、受け付けた銀行員が宝くじの番号部分が通常の宝くじと異なっていることに気づき、滋賀県彦根警察署に通報。
駆け付けた警察官により、Aさんは有価証券偽造等・同行使罪と詐欺未遂罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※この事例はフィクションです。)
・宝くじは「有価証券」
本日は大晦日です。
まさに年の瀬、年末といった時期ですが、この時期、高額当選を夢見て宝くじを購入したという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の事例は、その宝くじに関わる刑事事件です。
Aさんの行為がそれぞれどういったことから有価証券偽造等・同行使罪・詐欺未遂罪に問われることになるのか、詳しく見ていきましょう。
今回の事例のAさんは、自分の購入した宝くじと当たりくじの番号が近いことをいいことに、自分の購入した外れの宝くじの番号部分を書き換え、当たりくじのようにしています。
まず、この行為が刑法の有価証券偽造等罪となる可能性があります。
有価証券偽造等罪は刑法162条に規定されており、さらにその偽造された有価証券を使った場合には、刑法163条に規定されている偽造有価証券行使等罪が成立することになります。
刑法162条1項(有価証券偽造等罪)
行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
刑法163条1項(偽造有価証券行使等罪)
偽造若しくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
まず、有価証券偽造等罪のいう「行使の目的で」とは、文字通りその偽造した有価証券を使う目的で、ということです。
つまり、使う目的なく有価証券を偽造したとしても、有価証券偽造等罪には当たらないということになります。
今回のAさんで考えれば、宝くじを当たりくじに見せかけて換金しようとしていますから、当たりくじのように改ざんした宝くじを当たりくじのように使用する目的があったということになるでしょう。
では、有価証券偽造等罪の客体である「有価証券」とはどういったものを指すのでしょうか。
条文上では、「公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券」とされていますが、「公債証書、官庁の証券、会社の株券」についてはあくまで「有価証券」の例示であり、これに当てはまらないからといって「有価証券」ではないということではありません。
「その他の有価証券」については法律で具体的に決められているわけではなく、解釈にゆだねられています。
過去の判例では、「有価証券」は「財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするものでなければならない」と解釈されています(最判昭和32.7.25)。
ここで、宝くじが有価証券偽造等罪のいう「有価証券」にあたるのかどうか考えてみましょう。
宝くじは、当たっていれば当選金を受け取ることができ、宝くじにはその旨が記載されています。
当選金を受け取れる(請求できる)権利は「財産上の権利」ですから、宝くじには「財産上の権利が証券に表示され」ていることになります。
そして、宝くじの当選金を受け取る権利の行使をするためには、その宝くじを自分が支配・管理=占有していなければいけません。
つまり、宝くじは「財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使につきその証券の占有を必要とするもの」であるといえることから、有価証券偽造等罪のいう「有価証券」にあたると考えられるのです。
過去の判例でも、宝くじは有価証券偽造等罪の「有価証券」にあたると解されています(最決昭和33.1.16)。
「有価証券」という言葉と宝くじはなかなか結び付きにくいところですが、このように「有価証券」にあたると考えられているのです。
このように、刑事事件では、法律に決められている言葉に実際の物が該当するのかどうか判断するにも、知識や経験が要求されます。
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