借りるだけのつもりが窃盗事件に発展
借りるだけのつもりが窃盗事件に発展したケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県近江八幡市に住んでいるAさんは、自宅から少し距離のある店に買い物に行こうと歩いていましたが、道中にあった駐輪場に停めてあったVさんの自転車が目に留まりました。
Aさんは、「自転車に乗って行けば早く済むし、すぐに戻るのだから借りるくらいなら大丈夫だろう」と考え、停めてあったVさんの自転車を借りるつもりで乗っていきました。
15分後、Aさんが自転車に乗って駐輪場に戻ってくると、Vさんが自転車がなくなったと滋賀県近江八幡警察署に相談していたようで、Vさんの自転車に乗っていたAさんは滋賀県近江八幡警察署で話を聞かれることになってしまいました。
Aさんは、「自分は借りるだけのつもりでいたし、実際に駐輪場に戻ってきているのに窃盗罪になるのか?」と不安に思っています。
(※この事例はフィクションです。)
・「借りるだけ」でも窃盗事件に?
今回の事例のAさんは、借りるだけのつもりで駐輪場に停めてあったVさんの自転車を使用しています。
こうした「借りるだけ」「すぐ戻す」といったつもりで他人の物を使ってしまったというケースは、「使用窃盗」と呼ばれることがあります。
「使用『窃盗』」と言われる通り、こうしたケースでは窃盗罪が成立するのかどうかが問題となります。
刑法第235条(窃盗罪)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
結論からいうと、いわゆる使用窃盗のケースでは、原則として窃盗罪は成立しないと考えられています。
そもそも、窃盗罪が成立するには、上記の条文に書いてある条件(「他人の財物を窃取した」こと)以外に、その窃盗行為をした人に「不法領得の意思」という意思があることが必要であると考えられています。
「不法領得の意思」とは、「権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様に利用し、または処分する意思」とされています。
簡単に言えば、その物の持ち主を排除して、自分がその物の持ち主で無ければできないような行為をしてその物を利用・処分するつもりがあるかということです。
窃盗罪の条文には載っていないものの、窃盗罪の成立にはこの「不法領得の意思」があることが必要だと考えられています。
もしもこの「不法領得の意思」の有無を考えなければ、その物を毀棄・隠匿するつもりだった場合(器物損壊罪などが成立する場合)と区別がつかなくなってしまうため、窃盗罪では「不法領得の意思」があるかどうかが重要となっているのです。
ここで今回のAさんの事例のような「使用窃盗」のケースを考えてみましょう。
「借りるだけ」「すぐ戻す」と思っていたような場合、「権利者を排除し、他人の物を自己の所有物と同様に利用し、または処分する」という意思=不法領得の意思はないと考えられます。
少なくとも「借りるだけ」「すぐ戻す」つもりであるなら、「権利者を排除」する意思はないと思われるためです。
こうしたことから、使用窃盗のケースでは窃盗罪が成立しないとされているのです。
しかし、「借りるだけ」と思っていれば必ず窃盗罪が成立しないというわけではありません。
借りたものや借りていた時間によっては、使用窃盗のつもりでも窃盗罪となってしまうことがあります。
過去には、他人の自動車を無断で運転した事件で、窃盗罪が成立した事件があります。
自動車という価値の高いものであることや、燃料や外装を消費しているであろうこと、長時間運転したことなどから、使っていた自動車を自分の物として利用しているうえ権利者を排除するものだと判断され、窃盗罪に必要な「不法領得の意思」があると判断されたのです。
いくら「借りるだけ」「すぐ戻す」というつもりでも、事情によっては窃盗罪が成立する可能性が出てきますから、無断で人の物を使うようなことは避けるべきでしょう。
それでも使用窃盗をしてしまった、窃盗罪を疑われてしまったという場合には、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
使用窃盗のケースに当たるのか、窃盗罪が成立する可能性はあるのか、その場合どういった刑事手続きが予想されるかなど、刑事事件専門の弁護士が丁寧にご相談いたします。
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