賄賂を受け取って逮捕されたら
賄賂を受け取って逮捕されてしまったケースついて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県東近江市に住むBさんは建築業を営んでおり、昨今の不景気のあおりを受け事業の受注が伸び悩んでいました。
そこで、Bさんは、滋賀県東近江市で来年度に公募する公共事業の受注を何とか獲得したいと考え、滋賀県東近江市の市役所で働いており、公共事業の公募に関する業務を担当している知り合いのAさんに便宜を図ってもらうことにし、Aさんに対してその旨伝えた上で海外旅行のチケットを渡しました。
Aさんも、Bさんから伝えられた内容を把握した上でチケットを受け取りました。
しかし、Aさんが同じ課の上司にBさんを事業主とするよう主張したものの取り合ってもらず、結局Bさんは来年度の公共事業の事業者に選定されませんでした。
その後、滋賀県東近江警察署がAさんを受託収賄罪の容疑で逮捕しました。
Aさんの家族は急いで刑事事件を取り扱っている弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・収賄罪
今回の事例のAさんに成立する犯罪としてまず考えられるのは、刑法に定められている受託収賄罪という犯罪です。
受託収賄罪の成立要件は、①公務員が、②その職務に関し、③賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたこと、④請託を受けたことです。
刑法第197条第1項
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。
以下ではこの受託収賄罪の成立要件を1つずつ確認していきます。
まず、①「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員です(刑法第7条第1項)。
今回の事例のAさんのような市役所の職員はもちろん、公立の学校の教師や警察官なども含まれます。
次に、②の「職務」とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務をいいます(最判昭和28.10.27)。
この「職務」については、一般的職務権限があればよく、具体的な職務として現に行っている公務である必要はないと解されています。
というのも、受託収賄罪が職務の適正な遂行とそれに対する国民の信頼を保護することを目的に制定された犯罪だからであるとされています。
つまり、具体的な職務に含まれなくとも抽象的な職務権限にある行為にさえ賄賂が渡されれば、国民の信頼が害されるといえるので、抽象的職務権限でたりると解されているのです。
さらに、判例は、「職務に関し」とは公務員の職務行為自体であることを要せず、職務に密接に関係する準職務行為または事実上所管する職務行為の場合を含むと解しています(最決昭和31.7.12)。
判例の立場では、これらの職務についても賄賂によって国民の信頼が害されるおそれがあると考えているのでしょう。
以上から、②の条件である「職務に関し」とは、抽象的職務権限を有する行為又は職務密接関連行為について、と解されることになります。
また、③の要件である「賄賂」とは、公務員の職務に関連する不正の報酬としての一切の利益をいい、その利益は経済的な利益に限らず人の需要や欲求を満たすものであればよいと考えられています。
「収受」とは、賄賂を取得することをいいます。
「要求」とは、賄賂の供与を要求することをいい、相手が現実に応じたかどうかは犯罪の成否に影響しません。
「約束」とは、将来賄賂を収受すべきことについて合意することをいいます。
最後に、④の要件である「請託」とは、公務員に対し、職務に関し一定の職務行為を依頼することをいいます。
職務内容は正当なものも含みますが、ある程度具体的であることが必要とされています。
では、今回の事例について、受託収賄罪の成立要件をあてはめてみましょう。
滋賀県東近江市の職員である(①)Aさんは、公共事業の公募に関する業務を担当しており、この業務の一環としてなされる来年度公共事業の事業者選定(②)について便宜を図ってもらいたいとのBさんの依頼を受けて(④)海外旅行のチケットを受け取っています(③)。
結果としてAさんの働きかけによってBさんの受注には至っていませんが、受託収賄罪の条文には、受託収賄罪成立の条件として、「賄賂を受け取って相手の要求が実現される」というところまでは設定されていません。
つまり、今回の事例のAさんのように、賄賂を受け取るなどした時点で受託収賄罪は成立するということになるのです。
以上から、Aさんには受託収賄罪が成立すると考えられるのです。
受託収賄罪を含む収賄罪は、議員などの政治家特有の犯罪だというイメージがあるかもしれません。
しかし、平成30年度犯罪白書によれば、最も検挙されている公務員の属性は地方公共団体の職員です。
おそらく議員と比べ、地方高級団体の職員の貰える給料は高くなく、直接権限行使に携わっていることが多いため、贈賄側からの働き掛けも強いものとなっているのでしょう。
収賄事件は一般のイメージよりも身近に存在する刑事事件なのです。
受託収賄罪は、職務の公正に対する国民の信用を毀損し、遵法意識の低下を招くなど、その及ぼす影響は小さくありません。
さらに、収賄事件は当事者だけで隠密裏に行われることが多く、被害者が存在しない犯罪です。
このような受託収賄罪などの賄賂の罪に関しては、検察官の処分も重い傾向があり終局処分のおよそ7割が起訴となっています(平成30年度犯罪白書より)。
こうした重大かつ複雑な刑事事件となるからこそ、早めに弁護士に相談することが重要と言えるでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士がご相談・ご依頼を受け付けています。
賄賂を貰って逮捕されてしまったとお困りの際は、お気軽にご相談ください。