被害者をだましたのに窃盗事件?①
被害者をだましたのに窃盗事件として検挙されたケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
滋賀県東近江市に住んでいる高校生のAくん(17歳)は、高校が冬休みに入ることから、冬休みに稼げるアルバイトはないかとアルバイトを探していました。
すると高校の先輩であるBさんから、「簡単に稼げるアルバイトがある」と伝えられ、Bさんの伝手でそのアルバイトをすることになりました。
Aさんがそのアルバイトの詳細を聞いたところ、お年寄りの家に行って銀行員を装い、キャッシュカードと暗証番号を封筒に入れさせたうえでその封筒と自分の用意した偽物の封筒を隙を見てすり替え、すり替えたキャッシュカードと暗証番号を使用して金を引き出すというものでした。
Aさんは、「よくニュースで見る犯罪だ」と思ったものの、「冬休みの短い間だけで何十回もやるわけではないからばれないだろう」と考え、そのアルバイトをすることにしました。
しかしアルバイトをしてから数日後、滋賀県東近江警察署の警察官がAさん宅を訪れ、Aさんは窃盗罪の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんの両親は、警察官から「窃盗罪の容疑で息子さんを逮捕します」としか聞かせてもらえず、困って弁護士に相談しました。
その後、弁護士から事件のあらましを聞いたAさんの両親は、「被害者の方をだましているのに窃盗罪なのはどうしてなのか」と疑問に重い、弁護士に詳しい説明を聞くことにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・被害者をだましたのに窃盗罪?
オレオレ詐欺や振り込め詐欺などのいわゆる特殊詐欺事件だけでなく、いわゆるキャッシュカード手交型詐欺と呼ばれるような、銀行員や警察官等を装って暗証番号を聞き出したうえでキャッシュカードを騙し取る詐欺事件も多く発生しています。
こうした詐欺事件をニュースや特集番組などで見かけた、という方も少なくないでしょう。
このようなキャッシュカードに関連する犯罪で昨今見かけるようになってきた手口として、今回のAさんが関わってしまった窃盗事件のようなケースが見られます。
Aさんの関わってしまった窃盗事件では、銀行員を装って被害者から暗証番号を聞き出し、さらにキャッシュカードを入れさせた封筒と偽物の封筒をすり替え、本物のキャッシュカードを持ち去ってしまうという手口が用いられています。
こうした手口を用いた犯罪は、キャッシュカードすり替え詐欺などと呼ばれることもあるようですが、事例の中でも紹介した通り、実はこの手口に成立するのは詐欺罪ではなく窃盗罪です。
事例の中でAさんの両親も不思議に思っている通り、被害者をだましてキャッシュカードを持ち去っているにもかかわらず、なぜ詐欺罪ではなく窃盗罪が成立するのでしょうか。
まずは、詐欺罪と窃盗罪の条文を確認してみましょう。
刑法235条(窃盗罪)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法246条(詐欺罪)
人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
窃盗罪が成立するには、「他人の財物を窃取」することが必要です。
「他人の財物を窃取」するとは、簡単に言えば「持ち主の意思に反してその物を自分の物としてしまうこと」を指します。
よく窃盗罪で検挙される万引きを例に考えると、お店の物である商品を会計をせずに自分の物としてしまう=お店は未会計の商品を渡すつもりはないはずなので、お店の意思に反して自分の物にしてしまっているということから窃盗罪の成立が考えられることになります。
対して、詐欺罪が成立するには、「人を欺いて財物を交付させ」なければいけません。
簡単に言えば、詐欺罪であるといえるためには、「相手をだまし、そのだましたことによって相手に物を引き渡させる」ことが必要なのです。
つまり、詐欺罪の場合、相手がだまされ、だまされたことによる相手自身の判断に基づいて相手が物を渡してくるということになるのです。
オレオレ詐欺で考えてみると、嘘を信じたことによって被害者自身がお金や物を渡す判断をしてしまい、被害者自身がお金や物を渡してしまうという流れになっていることが分かります。
これらを踏まえてAさんの事例をもう一度考えてみましょう。
Aさんらは、たしかに被害者のお年寄りに、銀行員を装う等して嘘をついてだましています。
しかし、お年寄りはだまされたことでキャッシュカードを渡しているのではなく、Aさんらがキャッシュカードをすり替えて持ち去っています。
すなわち、Aさんらはお年寄りをだましてお年寄り自身にキャッシュカードを渡す判断をさせているわけではなく、キャッシュカードをすり替えることによって持ち去っている=キャッシュカードの持ち主のお年寄りの意思に基づかずにキャッシュカードを手に入れているということになります。
こうしたこことから、Aさんらが被害者をだましていることに間違いはないのですが、成立する犯罪は窃盗罪であるということになるのです。
今回のAさんは少年であるため原則として刑罰を受けることはありませんが、成人の刑事事件であった場合には刑罰の重さの違い等も考えながら弁護活動を進めていく必要があります。
キャッシュカードすり替えによる窃盗事件や類似の詐欺事件にお困りの際は、刑事事件専門の弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の弁護士までご相談ください。
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