SNSでの名誉毀損事件②
SNSでの名誉棄損事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
Aさんは、滋賀県草津市にある勤め先の同僚Vさんとその上司が不倫関係にあることを知りました。
日頃からVさんのことをよく思っていなかったAさんは、Vさんが上司と不倫している旨の書き込みをSNS上にて公開しました。
Vさんはその書き込みに気が付くと、滋賀県草津警察署へ被害届を提出しました。
そして、被害届を受けた滋賀県草津警察署はVさんに対する名誉毀損事件として捜査を開始しました。
滋賀県草津警察署の捜査により、書き込みを行った人物がAさんであることが判明し、滋賀県草津警察署はAさんについて名誉毀損罪の容疑で在宅での捜査を行うこととしました。
(※事例はフィクションです。)
・名誉毀損罪で罰せられないこともある?
前回の記事では、Aさんが容疑をかけられている名誉毀損罪について詳しく触れていきました。
刑法230条1項(名誉毀損罪)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
しかし、実は前回までの記事で見てきた名誉毀損罪成立の条件に当てはまる行為であっても、全て罰せられるという訳ではありません。
次の条文に該当した場合には名誉毀損罪で処罰されないことになります。
刑法第230条の2
1項 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(※注:「前条第1項」とは、名誉毀損罪が定められている刑法230条1項のことを指します。)
刑法230条の2の1項にある「公共の利害に関する事実」(事実の公共性)とは、多数一般の利害に関する事実、つまり、公共の利益に役立つ事実をいいます。
もっとも、「公共」といっても社会全体のことに関する事実のみ指しているわけではなく、一定のグループのみの利益に関する事実は当該グループ内において公表する場合にのみ公共性を肯定できるとして、「公共」概念の相対性を認められています。
刑法230条の2の2項でいう「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実」は、先ほど取り上げた「公共の利害に関する事実」=多数一般の利害に関する事実、つまり、公共の利益に役立つ事実であるとみなされるということになります。
一方、刑法230条の2の3項では、名誉毀損罪にあたる行為が公務員や公選による公務員の候補者(例えば市議会議員候補者等)に関する事実に関わるものである場合について定めています。
この場合、刑法230条の2の1項で取り上げた「公共の利害に関する事実」であるかどうか=「事実の公共性」があるかどうかに加えて、「目的の公共性」も存在するものとみなされる結果、名誉毀損行為によって摘示された「事実」が真実かどうかの判断のみで名誉毀損罪として罰せられるかどうかが判断されます。
なお、刑法230条の2の1項にある「その目的が専ら公益を図る」とは、公益を図ることが主たる動機であればよいとされています。
真実性の証明ができた場合には、刑法第230条の2第1項により、名誉毀損罪によって罰せられることはありません。
・真実だと思って名誉毀損行為をしていた場合
では、名誉毀損行為をした人が、本当は嘘の「事実」であったにもかかわらず、摘示した「事実」は真実であると信じて名誉毀損行為をしていた場合はどのような結果になるのでしょうか。
この場合、「事実」についての裏付けもしていない軽率な言論行為についてまで、「名誉毀損行為をした人が真実であると思っていた」という点のみで名誉毀損罪として処罰しないとすれば、名誉保護の観点から妥当ではありません。
そのため、証明可能な程度の資料・根拠をもってその「事実」を真実であると誤信していた場合にのみ、名誉毀損罪によって処罰しないこととされています。
なお、今回のAさんは、あくまでVさんを快く思っていなかったことから不倫の事実をSNSに書き込んでいます。
これは公益を図ることが主な動機であるとは言えませんし、Vさんもその上司も公務員や公選による公務員の候補者というわけではなさそうです。
ですから、Aさんの名誉毀損事件では、刑法230条の2は適用されないと考えられます。
名誉毀損事件では、刑法230条の2が適用されるかどうかを争う複雑な事案も存在します。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士がそういった複雑な刑事事件のご相談にも丁寧に対応いたしますので、まずはお気軽にご連絡ください(フリーダイヤル:0120-631-881)。