特殊詐欺に関わって逮捕されたら①公記号偽造罪
特殊詐欺に関わって逮捕されてしまったケースのうち、特に公記号偽造罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
23歳のAさんは、自由に使えるお金がないことに不満をもち、どうにかお金を手に入れることができないかと悩んでいました。
そこで、Aさんは知人であるBさんと一緒になって、警察官を装った特殊詐欺を行い、高齢者から金をだまし取り、山分けする計画を立てました。
そして、AさんとBさんは計画通り、警察官を装った特殊詐欺を行いました。
ある日、Bさんは滋賀県米原市に住む高齢者Vさんに電話をかけ、「警察です。特殊詐欺犯を逮捕したところ、あなたの氏名が出てきました。被害に遭うと大変なので、こちらで警察官を向かわせて対策を立てます。キャッシュカードと暗証番号を用意して待っていてください。」などと伝え、キャッシュカードと暗証番号を準備させました。
Aさんは、警察官を装うため、滋賀県米原市にあるVさん宅の近くにあるコンビニのコピー機で、警察を表す日章の記号や警察官風の写真などを印刷し、警察官の身分証のようなものを作成し、Vさん宅に向かいました。
しかし、その道中、Aさんは複数の特殊詐欺の被害を受けて警戒していた滋賀県米原警察署の警察官に職務質問され、偽造した身分証を発見されました。
結果、Aさんは公記号偽造罪の容疑で逮捕されてしまいました。
(※令和2年3月4日YAHOO!JAPANニュース配信記事を基にしたフィクションです。)
・公記号偽造罪
今回のAさんの逮捕容疑である公記号偽造罪という犯罪は、なかなか聞きなじみのない犯罪かもしれません。
公記号偽造罪は刑法に規定されている犯罪です。
刑法166条
1項 行使の目的で、公務所の記号を偽造した者は、3年以下の懲役に処する。
2項 公務所の記号を不正に使用し、又は偽造した公務所の記号を使用した者も、前項と同様とする。
「公務所」という言葉もあまりなじみのない言葉ですが、刑法では以下のように定義づけられています。
刑法7条2項
この法律において「公務所」とは、官公庁その他公務員が職務を行う所をいう。
つまり、公記号偽造罪とは、官公庁などの公務員が働く場所の記号を行使の目的で偽造することで成立する犯罪なのです。
公記号偽造罪の客体である「記号」とは、一般には、人の同一性を表示する物以外のものを指すと言われていますが、過去の判例では、文書以外のものに用いられるものを指すと解されています(大判大3.11.4)。
例えば、今回のAさんの事例で考えてみましょう。
今回Aさんがコピーするなどしたものの中には、警察を表す日章が含まれています。
警察で使用されている日章は、いわゆる「桜の代紋」と呼ばれているもののことです。
警察署や刑事ドラマなどで見たことのある方も多いでしょう。
この日章は人の同一性を表示するものではない(または文書に用いられるものではない)ことに加え、公務員である警察官が職務を行う警察を示すものであることから、公記号偽造罪の条文である「公務所の記号」であるといえるでしょう。
公記号偽造罪が成立するには、この「公務所の記号」を「行使の目的」で「偽造」することが必要です。
「行使の目的」とは、そのまま、「使う目的で」ということです。
「偽造」とは、権限なく公務所の記号を物体上に表示することを指すとされています。
今回のAさんの事例を見てみると、Aさんは「公務所の記号」である警察の日章をコピーし、表示させています。
もちろんAさんには警察の日章を取り扱う権限があるわけではないですから、公記号偽造罪の「偽造」をしたことになります。
さらに、Aさんは特殊詐欺の流れの中で特殊詐欺の被害者に提示する=警察の日章を使う目的でこの偽造行為をしているため、「行使の目的で」公務所の記号を偽造したことになります。
こうしたことから、Aさんには公記号偽造罪の容疑がかかり、逮捕されたと考えられるのです。
注意しなければならないのは、この偽造した公記号を使用した場合にも偽造公記号使用罪として処罰される(刑法166条2項)ことと、偽造公記号使用罪には未遂罪の規定もある(刑法168条)ということです。
今回のAさんは、偽造した公記号を実際に使用するまではいかなかったものの、偽造公記号使用未遂罪に問われる可能性もあるということになります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、公記号偽造罪のようななじみのない犯罪についてのご相談も、刑事事件専門の弁護士が受け付けています。
刑事事件専門だからこそ、耳にしたことのないような犯罪でも、どのような犯罪なのか、どういった見通しなのか丁寧にアドバイスしていくことができます。
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次回の記事では詐欺罪について解説します。