下半身を押し当てる痴漢で強制わいせつ事件①
下半身を押し当てる痴漢で強制わいせつ事件になった事例について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
会社員のAさんは、通勤に利用している滋賀県草津市を通る混雑した電車の中で、自身の近くに立っていた女性客Vさんに興味を持ちました。
Aさんは欲を我慢しきれず、Vさんに自身の下半身をVさんに押し当てるなどする行為を15分程度続けました。
VさんはAさんから逃げようとしましたが、電車内が混雑していたことやAさんが体を密着させていたことから逃げることができず、近くの乗客に助けを求めました。
近くにいただ乗客がVさんの助けを求める声やAさんの行為に気付き、痴漢の犯人としてAさんを駅員に引き渡しました。
Aさんは通報を受けてやってきた滋賀県草津警察署の警察官に引き渡され、強制わいせつ罪の容疑で逮捕され取調べを受けることになりました。
Aさんが逮捕されたと知ったAさんの家族は、急いで刑事事件に対応している弁護士に相談することにしました。
(※令和2年10月26日京都新聞配信記事を基にしたフィクションです。)
・痴漢事件で成立する犯罪
痴漢事件の多くは、都道府県の定めるいわゆる迷惑防止条例違反や今回のAさんの逮捕容疑である刑法上の強制わいせつ罪にあたることが多いです。
まずは滋賀県の迷惑防止条例の中の痴漢に関する規定と強制わいせつ罪の条文を見比べてみましょう。
滋賀県迷惑防止条例第3条第1項
何人も、公共の場所または公共の乗物において、みだりに人を著しく羞恥させ、または人に不安もしくは嫌悪を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
第1号 直接または衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から人の身体に触れること。
※注:法定刑は6月以下の懲役または50万円以下の罰金(滋賀県迷惑防止条例第11条第1項第1号)。
常習の場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金(滋賀県迷惑防止条例第11条第2号)。
刑法第176条(強制わいせつ罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。
13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
2つの犯罪の違いとしては、以下のような点が挙げられます。
迷惑防止条例違反
・痴漢事件の起こった場所として公共の場所・乗物に限定されている。
・痴漢行為の態様は「みだりに人を著しく羞恥させ、または人に不安もしくは嫌悪を覚えさせるような」ものであり、「直接または衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から人の身体に触れる」ものとされている(ただし、滋賀県迷惑防止条例第3条第1項第3号には「前2号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること」とあるので、これ以外の行為も迷惑防止条例違反となる可能性はあり。)。
強制わいせつ罪
・痴漢事件の起こった場所に限定はなし。
・痴漢行為の手段として「暴行又は脅迫」が用いられていることが必要(被害者が13歳未満の場合は不要。)。
・痴漢行為の態様としては「わいせつな行為」とされている。
上記のように迷惑防止条例の規制対象となっている痴漢行為は多くの場合公共の場所や乗物となっていることから、電車内での痴漢事件では迷惑防止条例違反が成立するケースが多いです。
しかし、痴漢事件の起こった場所が公共の場所や乗物だから必ず迷惑防止条例違反となるわけではなく、強制わいせつ罪の条文にあるような「暴行又は脅迫」が用いられて「わいせつな行為」が行われた場合や、強制わいせつ罪の「暴行」と「わいせつ行為」が一体として考えられるような態様で痴漢行為をしていたような場合には、たとえ電車内等の公共の場所・乗物で起こった痴漢事件でも強制わいせつ罪が成立することになります。
今回のAさんの逮捕容疑である強制わいせつ罪について詳しく見ていきましょう。
強制わいせつ罪のいう「暴行又は脅迫」とは、被害者の抵抗を押さえつける程度の強さがあることが求められます。
そういうと相手を抑え込む程の強い力で拘束するといったイメージがわきやすいですが、痴漢事件では被害者が痴漢行為をしてくる者に対して恐怖を感じていることも多く、その影響からある程度軽微な暴行・脅迫であっても被害者の抵抗を困難にしている=強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫」に当てはまると判断される可能性があります。
また、強制わいせつ罪ではわいせつ行為をする手段として用いられる「暴行」と「わいせつ行為」自体が同じ行為であってもよいと考えられています。
例えば、被害者に抱きつくといった行為は、それ自体が被害者の抵抗を押さえつける「暴行」であると同時に「わいせつな行為」であるといえます。
一口に痴漢事件といっても成立する犯罪も痴漢行為の態様も異なるため、当事者のみでは分からないことも多いでしょう。
徳に逮捕の伴う捜査であれば、逮捕された本人もその周囲のご家族も不安の多いことでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、こうした刑事事件の不安を軽減できるよう、刑事事件専門の弁護士が逮捕直後から迅速に対応を行います。
まずはお気軽に弊所弁護士までご相談ください。