強制わいせつ罪の「わいせつな行為」

強制わいせつ罪の「わいせつな行為」

強制わいせつ罪の「わいせつな行為」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

滋賀県甲賀市に住むAさんは、ある日Aさん宅に訪問販売に訪れた会社員の女性Vさんが好みだったことから、Vさんの手をつかみ、露出させた自分の下半身を触らせようとしました。
Vさんがとっさに身を引いたことから、Vさんに自身の下半身を触らせることはできませんでしたが、Aさんはその掴んだVさんの手を強い力で引き寄せ舐めるなどしました。
そして、AさんはさらにVさんにキスをしようと抱き着きましたが、Vさんが悲鳴を上げて近くの交番に逃げ込んだため、そのまま駆け付けた滋賀県甲賀警察署の警察官に強制わいせつ罪の容疑で逮捕されることとなりました。
Aさんの逮捕の知らせを聞いたAさんの家族は、どうしていいのかわからず、インターネットですぐに対応してくれる弁護士を探すと、弁護士の事務所に連絡し、まずは弁護士にAさんのもとへ接見へ行ってもらうことにしました。
(※令和2年3月31日YAHOO!JAPANニュース配信記事を基にしたフィクションです。)

・強制わいせつ罪と「わいせつな行為」

今回のAさんの逮捕容疑は強制わいせつ罪です。
強制わいせつ罪は、刑法176条に規定されている犯罪です。

刑法176条(強制わいせつ罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。
13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

この条文を見てみると、強制わいせつ罪は「暴行又は脅迫を用いて」「わいせつな行為」をすることで成立するということが分かります。
強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫を用いて」とは、相手(被害者)の抵抗を押さえつける程度のものである必要があると言われています。
例えば、今回のAさんのように、被害者であるVさんの手をつかんで強い力で引き寄せたり、抱き着いたりといった行為は、相手の抵抗を押さえつける程度の暴行と判断される可能性が高いでしょう。
その他にも、手を押さえつけたり体を縛るなどして拘束したり、「抵抗すれば殺す」など強い言葉で脅したりすれば、強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫を用いて」いることになると考えられます。
ただし、強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫」といえるかどうかは、単に加えられた暴行や脅迫の力が強いかどうかだけではなく、加害者と被害者の年齢や体格差、犯行時の状況等様々な事情によって判断されます。

では、「わいせつな行為」という行為はどういった行為を指すのかというと、被害者の性的羞恥心を害す行為であるとされています。
つまり、簡単に言えば、被害者が性的に恥ずかしい、不快だ、と感じる行為が強制わいせつ罪の「わいせつな行為」なのです。
例えば、日本以外では、挨拶としてお互いがハグをしたりキスをしたりといった文化のある国もあります。
お互いが挨拶の意味で認識しながら相手に抱き着いたりキスしたりする場合には、お互い性的な感情を持たずに同意して行っているわけですから、性的羞恥心を害することはないでしょう。
しかし、相手の同意を得られていない状態で相手の意思に反して抱き着いたりキスをしたりすれば、相手が性的に恥ずかしい、不快だと感じる可能性が出てくることは想像できるでしょう。
なお、以前は強制わいせつ罪の成立に、いわゆる「性的意図」が必要であるとされてきましたが、近年その考えは変更され、加害者に「性的意図」がなくとも強制わいせつ罪は成立すると考えられています。
このように、強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」とは、一見分かりやすい行為のように見えて、その時の状況や前後の流れ等の事情を加味して考えなければいけない行為なのです。

今回の事例について考えてみましょう。
今回Aさんは、Vさんの手を強くつかみ引き寄せる等の行為をしていますから、Vさんの抵抗を著しく困難にする「暴行」を用いていると考えられます。
そして、下半身を触らせようとしたうえでVさんの手を舐め、抱き着く行為をしています。
こうした一連の行為は、Vさんの性的羞恥心を害す行為だと考えられますから、Aさんは「暴行…を用いて」「わいせつな行為」をしたといえ、強制わいせつ罪が成立すると考えられるのです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、強制わいせつ事件を始めとする性犯罪事件のご相談・ご依頼にも対応しています。
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