置き忘れ荷物の窃盗事件

置き忘れ荷物の窃盗事件

置き忘れ荷物窃盗事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~

Vは,滋賀県守山市で,荷物を持ってバスを待つ行列に並んでいたが,持つのに疲れて荷物を地面に置いた。
そして,荷物を置いたことを失念してしまい,荷物を持たないまま,行列が進むのに合わせて前に進んでしまった。
そこにAが通りかかり,Aは,地面に置かれた荷物を誰も持って行こうとしないのを見て,それを自分の物にしようと考えて持ち去った。
Vは,バスに乗る前に荷物を持っていないのに気付き,慌てて現場に戻って来た。
気付いてから引き返すまで数分,気付いた地点と引き返してきた地点との距離は約20メートルだった。
置き忘れた荷物がないことに気づいたVは係員に相談し,滋賀県守山警察署に通報。
ほどなくして,Aが荷物を持ち去ったことが判明し,Aは滋賀県守山警察署に,窃盗事件の被疑者として呼び出された。
Aは,窃盗罪に問われているが,荷物は置き忘れられた物であって誰かが所持しているとは思わなかったと弁解しており,刑事事件に強い弁護士に,この事件の見通しや対応の仕方を相談してみることにした。
(事実を基にしたフィクションです)

~窃盗罪とは~

今回の事例でAが問われている窃盗罪は,刑法第235条に規定されている犯罪です。

刑法第235条(窃盗罪)
他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

窃盗罪の条文に出てくる「窃取」という言葉は,その物の占有者の意思に反して,物の占有を占有者から自分や第三者のところに移転させる行為を指しています。
占有とは,その物を支配・管理していることを指しており,つまり,その物を支配・管理している人の意思に反してその物を支配・管理を移してしまうことが窃盗罪の「窃取」という行為に当たるものなのです。
典型的な「窃取」行為としては,万引き行為が挙げられます。
万引きは,品物を占有している店の意思に反し,品物を自分の手許に移転させる行為ですから,窃取行為に当たります。
皆さんの中にも,窃盗罪の犯行態様として万引きが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。

ここで,窃盗罪の「窃取」と言えるためには,物の占有が誰かのところにあったことが必要です。
本件では,Vは,荷物を地面に置いたことを忘れて行列が進むのに合わせて前に進んで行ってしまいました。
Vは,荷物の占有を失ってしまったとは言えないでしょうか。
もしVが荷物の占有を失ってしまっており,ほかにその荷物を占有している人がいなかったとしたら,その荷物は誰の占有下にもない「遺失物」ということになり,弁解のとおり,Aの罪責は遺失物等横領罪に止まることになります。

刑法第254条(遺失物等横領罪)
遺失物,漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

~占有~

本件のような置き忘れた物について,なお本来の占有者の占有があるかどうかについて,昭和32年11月8日の最高裁判所判決では,「占有は人が物を実力的に支配する関係であつて,その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが,必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく,物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして,その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない」としています。
つまり,占有は手放した瞬間に直ちに失われるわけではなく,占有者の支配力が未だ及んでいると言えれば,占有は未だ失われていない,ということです。占有者の支配力が及んでいるかどうかは,占有者が支配力を及ぼし得るような場所的関係にあったか,占有者が物に対して占有する意思を持っていたか,などの事情から判断されます。

本件では,荷物を置き忘れた地点とVがそれに気付いた地点は約20メートルの距離で,Vと荷物との間に視界を遮るような物もなく,Vが気付いたのも数分後という短い時間であったことなどから見て,荷物はなおVの実力的支配内にあったと言え,未だVの占有を離脱したものとは認められないと判断されたのだろうと考えられます。

~占有を奪う故意~

また,今回,Aは荷物に対してVの占有が及んでいると認識していなかった旨の弁解をしています。
窃盗罪の成立には,他人の占有を侵害することの認識が必要ですから,Aの主張は,窃盗罪の故意がなかったという主張であると言えます。

しかし,本件では,当時,荷物はバス乗客中の誰かが一時的にその場所に置いた物であることは何人にも明らかに認識し得る状況にあったとされ,Aがこれを遺失物と思ったという弁解は認められないという可能性が考えられます。
置き忘れられた物を拾っただけだから窃盗罪ではない,という弁解はしばしば聞かれますが,それが必ずしも通用するとは限らないということです。

窃盗罪や遺失物等横領罪の場合,被害者と示談交渉をして被害弁償と謝罪をしていくことが不起訴処分を目指したり重い刑罰を避けたりする上で有効です。
そのため,示談交渉の経験豊かな弁護士を通じて,少しでも早く被害者との示談に動いてもらうことをお勧めします。
また,もし身柄を拘束されているような場合には,被害者の方への被害弁償および示談を行うことで,身柄解放の可能性も高まります。

窃盗事件や遺失物等横領事件でお困りの方,またはそのご家族は,刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所弁護士にご相談ください。

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