ひったくりと事後強盗罪
ひったくりと事後強盗罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
Aさんは、滋賀県草津市内の路上を自転車に乗って走行中、自転車の前かごにバッグを入れて歩いているVさんを見かけました。
Aさんは、「荷物を簡単に取れそうだ」と思い、Vさんの横を通り過ぎざまに、Vさんのバッグをひったくり、そのまま立ち去ろうとしました。
しかし、VさんはすぐにAさんを追いかけ、Aさんの服を掴んでバッグを取り返そうとしました。
Aさんは、バッグを取り返されまいと、追いすがるVさんを突き飛ばして転倒させ、Vさんを振り切るとそのまま逃走しました。
一部始終を目撃していた人が滋賀県草津警察署に通報したことで捜査が開始され、Aさんは事後強盗罪の容疑で逮捕されました。
ひったくりのつもりが強盗罪という容疑で逮捕されたAさんは驚き、家族の依頼で接見に訪れた弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・ひったくりが強盗罪となるケースは?
前回の記事では、一般にひったくりは窃盗罪に問われるケースが多いものの、被害者の生命・身体に及ぼす危険の高い暴行によって財物を奪取したことが認められる場合になどには、強盗罪とされるケースもあるということを取り上げました。
そのようなケース以外にも、ひったくりが強盗罪とされうるケースとして、今回の事例のようなケースが考えられます。
刑法では、事後強盗罪という犯罪を定めています。
刑法第238条(事後強盗罪)
窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
事後強盗罪は、大まかにいえば、通常の強盗罪とは成立の条件の順序が逆になっている強盗罪です。
通常の強盗罪は、暴行・脅迫を手段として財物を奪うという犯罪です。
対して事後強盗罪は、財物を取得した後に、その財物を取り返されることや逮捕の回避、罪跡を隠滅する目的で暴行・脅迫をした者に成立する犯罪です。
文字通り、事後的に暴行・脅迫した場合に成立する強盗罪ということになるでしょう。
事後強盗罪の暴行・脅迫も、強盗罪と同様に相手方の反抗を抑圧しする程度の強度が要求されます。
事後強盗罪の条文の主語が「窃盗が」となっていることからわかるように、事後強盗罪の主体は、窃盗犯人(未遂を含む)でなければなりません。
事後強盗罪が成立するためには、窃盗犯人が行った暴行・脅迫が、
①財物を得てこれを取り返されることを防ぐ目的
②逮捕を免れる目的
③罪跡を隠滅する目的
のいずれかの目的で行われなければなりません。
たとえ窃盗罪にあたるひったくりであっても、財物を奪った後に上記①~③の目的で暴行・脅迫を行った場合には事後強盗罪に問われる可能性があるということになります。
例えば、今回の事例のAさんの場合、Aさんは一度ひったくり=窃盗罪にあたる行為をしてVさんのバッグを得ていますが、Vさんがバッグを取り返そうと追いすがってきたため、バッグを取り返されまいとしてAさんを突き飛ばすといった暴行を加えています。
これは①にあたる目的で暴行を加えたものと考えられますから、Aさんには事後強盗罪の容疑がかかったのでしょう。
ひったくりというと聞こえは軽いかもしれませんが、事情によっては強盗罪のような重大犯罪にも発展し得る犯罪行為です。
そこから強盗致傷罪や強盗致死罪に発展してしまえば、裁判員裁判の対象ともなるため、さらに複雑な刑事手続が予想されます。
強盗罪まで至らずとも、ひったくりの際に被害者に怪我をさせてしまったり暴行を加えてしまったりしたことで、傷害罪や暴行罪といった別の犯罪が成立するケースもあります。
単純な犯罪のように見えますが、たかがひったくりと考えず、早い段階から弁護士に相談しておきましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、ひったくりを含む刑事事件についてのご相談・ご依頼を受け付けています。
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