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自宅に放火して逮捕③(放火罪の既遂について)

2020-04-20

自宅に放火して逮捕された事件を参考に、放火罪の既遂時期について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇自宅に放火した事件◇

滋賀県草津市に住んでいるAさんは、何もかもが嫌になり、死んでしまいたいと考えるようになりました。
その結果、Aさんは、自分の住んでいるマンションの一室に放火しました。
火は燃え広がってAさんの部屋は全焼することになったものの、マンションの他の住民が早期に通報したことで、Aさんを含め死傷者を出すことなく鎮火しました。
そして、Aさんは滋賀県草津警察署現住建造物等放火罪の容疑で逮捕されることとなりました。
遠方に住んでいたAさんの親類は、報道によってAさんの起こした放火事件とその逮捕を知りました。
驚いたAさんの親類は、インターネットで刑事事件について調べ、とにかく弁護士に面会に行ってもらった方がよいと判断し、滋賀県の刑事事件に対応している弁護士の所属する法律事務所に連絡を取ってみることにしました。
(※フィクションです。)

◇放火罪の既遂時期◇

前回までの記事で、放火罪の種類と自宅への放火で成立しうる放火罪の検討を行いました。
そこで本日は、放火罪の既遂時期について解説します。

現住建造物等放火罪の条文にもあるとおり、実は放火罪の既遂となるには、単に「放火をした(火をつけた)」というだけでは不十分です。
現住建造物等放火罪非現住建造物等放火罪建造物等以外放火罪の成立には、いずれも放火したものを「焼損」したということも必要とされています(建造物等以外放火の場合はこれに加えて公共の危険を発生させることも求められます。)。

では、「焼損」とはどういったことを指すかというと、「火が媒介物を離れ目的物に移り、独立して燃焼作用を継続しうる状態に達した時点を『焼損』とする」と考えられています(最判昭和23.11.2)。
ですから、今回のAさんのように、マンションの一室を全焼させているような場合には「焼損」に至っているといえることは間違いありませんが、部屋の一部だけを焼損した場合も、現住建造物等放火罪が成立すると考えられます。
しかし、窓際のカーテンが燃えただけの場合など、建造物そのものが「焼損」に至っていないような場合には、放火の未遂罪となったり、状況によっては器物損壊罪にとどまったりすることが考えられます。
この判断にも、法律の専門知識が必要とされますから、放火罪が成立するのかどうか、放火したと思っていたのに別の犯罪の容疑がかかって疑問だ、といった場合には弁護士に相談して詳細を聞いてみることが望ましいでしょう。

◇放火事件の弁護活動◇

法定刑を見ていただければ分かるとおり、日本において放火は非常に重い犯罪です。
現住建造物等放火罪にいたっては、死刑や無期懲役といった刑罰も考えられます。
そのため、放火事件では逮捕・勾留によって逃亡や証拠隠滅を防いだ上で捜査されることも多いです。
ですから、弁護士の活動としては、釈放を求める活動をしていくことも考えられるでしょう。

そして、前回までの記事で取り上げたとおり、放火事件ではどの放火罪が成立するのかによって受ける刑罰の重さが大きく異なります。
容疑をかけられている放火罪の内容に間違いがない場合ももちろん取調べへの対応に気を付けなければなりませんが、容疑をかけられている放火罪の内容と自分の認識している事件の内容が異なる場合には、特に注意が必要です。

取調べの初期から自分の認識をきちんと話し、意図しない自白をしないようにするためには、被疑者の権利や刑事事件の手続きの流れ、容疑をかけられている犯罪や自分の認識について把握しておかなければなりません。
そのためには、弁護士とこまめに打ち合わせを行ったり、取調べへのアドバイスをもらったりすることが有効です。
こうした細かいフォローも弁護士の重要な活動の1つとなるでしょう。

~裁判員裁判の対象になる場合も~

さらに、現住建造物等放火罪の場合、死刑・無期懲役の刑罰が定められていることから、裁判が通常の裁判ではなく裁判員裁判という特殊な裁判の形となります。
裁判員裁判は特有の手続きや進行があるため、現住建造物等放火罪で起訴される可能性がある場合には、裁判員裁判にも対応できる刑事事件に強い弁護士のサポートが望まれます。

◇放火事件に強い弁護士◇

放火の罪で警察等の捜査を受けておられる方、ご家族、ご友人が放火の罪で警察に逮捕されてしまった方は、一刻も早く、刑事事件に強い弁護士にご相談することをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、こうした放火事件のご相談・ご依頼も刑事事件専門の弁護士がフルサポートすることをお約束いたします。
放火事件に強い弁護士をお探しの方は、今すぐフリーダイヤル0120-631-881(24時間受付け中)にお問い合わせください。

自宅に放火して逮捕②(適用法令を検討)

2020-04-18

自宅に放火して逮捕された事件に対して適用される法令について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇自宅に放火した事件◇

滋賀県草津市に住んでいるAさんは、何もかもが嫌になり、死んでしまいたいと考えるようになりました。
その結果、Aさんは、自分の住んでいるマンションの一室に放火しました。
火は燃え広がってAさんの部屋は全焼することになったものの、マンションの他の住民が早期に通報したことで、Aさんを含め死傷者を出すことなく鎮火しました。
そして、Aさんは滋賀県草津警察署現住建造物等放火罪の容疑で逮捕されることとなりました。
遠方に住んでいたAさんの親類は、報道によってAさんの起こした放火事件とその逮捕を知りました。
驚いたAさんの親類は、インターネットで刑事事件について調べ、とにかく弁護士に面会に行ってもらった方がよいと判断し、滋賀県の刑事事件に対応している弁護士の所属する法律事務所に連絡を取ってみることにしました。
(※フィクションです。)

◇建造物に対する放火◇

前回の記事で確認したとおり、放火罪には3つの種類があります。
では、自宅への放火事件の場合、どの放火罪が成立することになるのでしょうか。
放火の対象となる自宅は建造物となるでしょうから、建造物への放火に関連している放火罪を見ながら検討していきましょう。
建造物に対する放火の罪は以下のとおりです。

刑法第108条(現住建造物等放火罪)
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

刑法第109条(非現住建造物等放火罪)
第1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。
第2項 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。
ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

◇現住建造物等放火罪が適用されるケース◇

まさにAさんの事件がこれに該当します。
仮にAさんの家が一軒家で、Aさんしか居住していなかった場合については、後述しますが、Aさんの自宅はマンションの一室です。
マンションは、一棟に複数世帯が居住しているので、マンション全体が一つの建造物と考えられます。
つまり現住建造物等放火罪でいうところの、「現に人が住居に使用」に該当することは間違いありませんし、「現に人がいる」に該当する可能性も非常に高いでしょう。

◇非現住建造物等放火罪が適用されるケース◇

現住建造物等放火罪の「現に人が…」という部分の「人」には放火した犯人自身は含まないと考えられています。
ですから、もしも自宅への放火であったとしても、放火した犯人が1人暮らしする一軒家であり、そこに他の人がいなければ現住建造物等放火罪とはならず、非現住建造物等放火罪となる可能性が出てくるのです。
またマンション等の集合住宅であっても、その建物内の他の部屋が全て空き部屋で誰も住んでおらず、建物内に誰もいなかった場合は非現住建造物等放火罪が適用されることとなります。

◇放火の罪に問われない場合も・・・◇

非現住建造物等放火罪が適用されるケースについて解説しましたが、非現住建造物等放火罪は、放火した建造物が自己所有で、かつ公共の危険が発生していなければ刑事罰の対象となりません。
つまり、自分が所有する一軒家に、自分一人しか居ない時に放火し、更にその火事によって公共の危険が生じなかった場合は刑事罰を免れるのです。

ただし、刑法第115条は以下の内容を規定しています

刑法第115条
第109条第1項及び第110条第1項に規定する物が自己の所有に係るものであっても、差押えを受け、物権を負担し、賃貸し、配偶者居住権が設定され、又は保険に付したものである場合において、これを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。

つまり、ローンが残っていたり火災保険に入っていたりしている自己所有の建造物に放火した場合は、他人所有の建造物に放火した時と同じ刑事罰が科せられることとなるので注意が必要です。

このように、自宅への放火事件でも

・自宅が現住建造物に該当するか否か
・自宅の所有者が誰なのか
・自宅の状況(刑法第115条に該当するか否か)
・火災によって公共の危険が生じたか否か

によって適用される法律が異なってくるのです。
こうした判断を法律知識のない状態で行うことは非常に難しいため、放火の罪で警察等の捜査を受けておられる方、ご家族、ご友人が放火の罪で警察に逮捕されてしまった方は、一刻も早く、刑事事件に強い弁護士にご相談することをお勧めします。
放火事件に関するお問い合わせは、フリーダイヤル0120-631-881(24時間受付中)までお気軽にお電話ください。

自宅に放火して逮捕①(放火罪について)

2020-04-16

自宅に放火して逮捕された事件を参考に、放火罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇自宅に放火した事件◇

滋賀県草津市に住んでいるAさんは、何もかもが嫌になり、死んでしまいたいと考えるようになりました。
その結果、Aさんは、自分の住んでいるマンションの一室に放火しました。
火は燃え広がってAさんの部屋は全焼することになったものの、マンションの他の住民が早期に通報したことで、Aさんを含め死傷者を出すことなく鎮火しました。
そして、Aさんは滋賀県草津警察署現住建造物等放火罪の容疑で逮捕されることとなりました。
遠方に住んでいたAさんの親類は、報道によってAさんの起こした放火事件とその逮捕を知りました。
驚いたAさんの親類は、インターネットで刑事事件について調べ、とにかく弁護士に面会に行ってもらった方がよいと判断し、滋賀県の刑事事件に対応している弁護士の所属する法律事務所に連絡を取ってみることにしました。
(※フィクションです。)

◇放火罪の種類◇

新聞やテレビのニュースなどで報道されている放火事件を目にした方も多いかと思いますが、実は放火罪には3つの種類があり、どこに放火したかによって同じ「放火事件」であっても成立する犯罪が異なります。
さらに、一般に考えられている「放火」という言葉と、刑法の定める放火罪の成立する条件には違いがあるため、「放火事件だと思っていたのに放火罪ではなかった」ということもありえます。
今回の記事から数回に分けて、放火事件について詳しく触れていきます。

まず、刑法に定められている放火罪には、以下のようなものがあります。

刑法第108条(現住建造物等放火罪)
放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。

刑法第109条(非現住建造物等放火罪)
第1項 放火して、現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物、艦船又は鉱坑を焼損した者は、2年以上の有期懲役に処する。
第2項 前項の物が自己の所有に係るときは、6月以上7年以下の懲役に処する。
ただし、公共の危険を生じなかったときは、罰しない。

刑法第110条(建造物等以外放火罪)
第1項 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、1年以上10年以下の懲役に処する。
第2項 前項の物が自己の所有に係るときは、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

3つの放火罪の成立する条件について簡単に整理してみましょう。

◇現住建造物等放火罪◇

まず、刑法第108条にある現住建造物等放火罪は、「現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物」等に放火し、それらを焼損した場合に成立します。
つまり、人が住んでいる家や建物、もしくはそうでなくとも現在中に人がいる家や建物に放火し、それらを焼損した場合に成立するのが現住建造物等放火罪です。
例えば、誰かの家や、営業中の商業施設は、人の住居であったり、住居でなくとも今現在誰かが中にいる建物であることから、現住建造物等放火罪の対象となります。

◇非現住建造物等放火罪◇

次に、刑法第109条第1項の非現住建造物等放火罪は、「現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいない建造物」等に放火し、それらを焼損した場合に成立します。
つまり、人が住んでいない家や建物であり、さらに現在中に人のいない建物に放火し、それらを焼損することで成立するのが非現住建造物等放火罪ということになります。
例えば、閉店後で店内に誰もいなくなった飲食店は、住居にも使われておらず、今現在誰もいないことから、非現住建造物等放火罪の対象となります。
なお、刑法第109条第2項の規定は、この非現住建造物等が放火した人自身の所有するものだった場合はそうでない場合に比べて刑罰を軽くするということと、さらに放火・焼損によって公共の危険が発生しなかった場合には罰しないということを定めています。

◇建造物等以外放火罪◇

そして、最後に刑法第110条第1項の建造物等以外放火罪は、今まで触れてきた現住建造物等放火罪や非現住建造物等放火罪の対象となっているもの以外に放火し、それを焼損し、さらに公共の危険を発生させたものを罰する犯罪です。
例えば、自動車などは、そもそも「建造物、艦船又は鉱坑」ではないため、現住建造物等放火罪や非現住建造物等放火罪の対象にはなりません。
そのため、現住建造物等以外放火罪の対象となると考えられます。
また、刑法第110条第2項については、放火・焼損した建造物等以外のものが放火した人自身のものであった場合にはそうでない場合に比較して軽い範囲での処罰となることを定めています。

ではAさんのように自宅に放火した場合、どの法律が適用されるのでしょうか?
次回の記事で詳しく検討していきましょう。

放火の罪は、適用される法律によって、科せられる刑事罰が大きく異なります。
放火の罪で警察等の捜査を受けておられる方、ご家族、ご友人が放火の罪で警察に逮捕されてしまった方は、一刻も早く、刑事事件に強い弁護士にご相談することをお勧めします。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、こうした放火事件のご相談・ご依頼も刑事事件専門の弁護士がフルサポートすることをお約束いたします。

覚せい剤の輸入は裁判員裁判?③

2020-04-14

覚せい剤の輸入事件で裁判員裁判となった事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇覚せい剤の輸入事件◇

滋賀県大津市に住んでいるAさんは、以前から覚せい剤などの違法薬物に興味を持っていました。
Aさんが覚せい剤について調べたところ、SNSで知り合った海外に住むXさんが、海外から覚せい剤を送ってくれると声をかけてきました。
Aさんはその誘いに乗り、Xさんから滋賀県大津市にあるAさんの自宅宛に、覚せい剤を送ってもらうことにしました。
しかし、いくら経っても覚せい剤が届かないことからおかしいと思っていたAさんの元に、滋賀県大津警察署の警察官がやってきて、Aさんは覚せい剤取締法違反と関税法違反の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんが送ってもらった覚せい剤は、税関で止められ、検査の結果覚せい剤であると判明したことから捜査が開始されたということのようです。
(※この事例はフィクションです。)

◇覚せい剤輸入と裁判員裁判◇

①の記事で触れた通り、覚せい剤輸入事件では、覚せい剤輸入の目的によって刑罰の重さが変わってきますが、変わるのは刑罰の重さだけではありません。
実は、覚せい剤輸入の目的が営利目的だった場合、受けることになる裁判が通常の裁判ではなく、裁判員裁判になります。

裁判員裁判について定めた裁判員法(正式名称「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」)では、裁判員裁判となる対象の事件について、以下のように規定しています。

裁判員法第2条第1項
地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条又は第3条の2の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第26条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。
第1号 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
第2号 裁判所法第26条第2項第2号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)

前回以前の記事で取り上げているように、営利目的の覚せい剤輸入による覚せい剤取締法違反には、その法定刑に無期懲役が含まれています。
つまり、裁判員法第2条第1項第1号の「死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件」にあたることになりますから、営利目的の覚せい剤輸入事件は裁判員裁判となるのです。

◇裁判員裁判は何が違う?◇

ここで、では通常のの裁判と裁判員裁判では何が違うのか、と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
いくつか裁判員裁判の特徴をご紹介します。

まず、裁判員裁判は、その名前の通り、弁護士や裁判官、検察官といった法律の専門家以外に、一般の方が裁判員として裁判に参加します。
裁判員の方は、裁判官と一緒に弁護士や検察官、被告人や証人の話を聞いたり証拠を見たりして、被告人の有罪・無罪や有罪の場合の量刑(形の重さ)を決めたりします。
つまり、裁判員裁判の場合、法律知識のない裁判員の方にも被告人側の主張を理解してもらうための工夫が必要となってくるのです。

そして、裁判員裁判は、そうした裁判員の方にも裁判内容が分かりやすいよう、また、スムーズに裁判が進められるよう、本番の裁判の前に、公判前整理手続という手続きが開かれます。
この手続きは、あらかじめ証拠を整理したり裁判で争われる争点を明確にしたりする手続きです。
この手続きを裁判の前にしておくことで、裁判を開始してから証拠や争点を絞り込む必要がなくなり、進行がスムーズになったり、今何が裁判で争われているのかが分かりやすくなったりするのです。
公判前整理手続は裁判員裁判以外の通常の裁判でも開かれることがありますが、必ず開かれるものでもありません。
しかし、裁判員裁判の場合、この公判前整理手続は必ず開かれることになります。
裁判員裁判をするとなれば、この公判前整理手続から主張を固めて活動をすることが重要です。
裁判で使用する証拠やポイントとなる争点を決める場ですから、裁判本番ではないから気を抜いてよいということにはならないのです。

そして、裁判員裁判では、裁判の開かれる期間も通常の裁判とは異なります。
例えば、通常の裁判では、起訴されてから大体1,2ヶ月程度で1回目の裁判が開かれ、その後また1,2ヶ月程度で次回の裁判、と裁判が開かれ、最終的に判決が言い渡される、というスケジュールになることが多いです。
そのため、最初の裁判が開かれてから判決が言い渡されるまで少なくとも2ヶ月程度はかかる計算になります。
一方、裁判員裁判は、参加する裁判員の方の負担を減らすため、裁判が集中的に開かれます。
例えば、初回の裁判が開かれた次の日に2回目の裁判が開かれ、さらにその翌日に3回目の裁判が開かれる、といった具合いです。
ですから、もちろん事件にもよりますが、裁判員裁判では、最初の裁判が開かれてから判決が言い渡されるまでは一気に進んでいくことになり、短いものであれば初回の裁判から判決まで1週間かからずに終わることも考えられます。

しかし、先ほど触れた通り、その裁判が開かれるまでの準備段階も含めると、裁判員裁判のために活動する期間は起訴から数カ月間、長ければ年単位になることも考えられます。
長い間集中した活動を求められますから、刑事事件に強い弁護士のサポートを受けながら対応していくことが望ましいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、裁判員裁判についてのご相談・ご依頼も受け付けています。
刑事事件専門だからこそ、裁判員裁判でも丁寧かつ迅速な対応が可能です。

覚せい剤の輸入は裁判員裁判ですか?②

2020-04-12

覚せい剤の輸入事件で裁判員裁判となった事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇覚せい剤の輸入事件◇

滋賀県大津市に住んでいるAさんは、以前から覚せい剤などの違法薬物に興味を持っていました。
Aさんが覚せい剤について調べたところ、SNSで知り合った海外に住むXさんが、海外から覚せい剤を送ってくれると声をかけてきました。
Aさんはその誘いに乗り、Xさんから滋賀県大津市にあるAさんの自宅宛に、覚せい剤を送ってもらうことにしました。
しかし、いくら経っても覚せい剤が届かないことからおかしいと思っていたAさんの元に、滋賀県大津警察署の警察官がやってきて、Aさんは覚せい剤取締法違反関税法違反の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんが送ってもらった覚せい剤は、税関で止められ、検査の結果覚せい剤であると判明したことから捜査が開始されたということのようです。
(※この事例はフィクションです。)

◇覚せい剤輸入と関税法違反◇

前回の記事では、覚せい剤輸入による覚せい剤取締法違反について触れていきましたが、覚せい剤輸入事件では、覚せい剤取締法違反だけでなくもう1つ別の犯罪が成立する可能性のあることにも注意が必要です。
それが関税法違反という犯罪です。

関税法第69条の11
1項 次に掲げる貨物は、輸入してはならない。
1号 麻薬及び向精神薬、大麻、あへん及びけしがら並びに覚醒剤(覚せい剤取締法にいう覚せい剤原料を含む。)並びにあへん吸煙具。ただし、政府が輸入するもの及び他の法令の規定により輸入することができることとされている者が当該他の法令の定めるところにより輸入するものを除く。

第109条 第69条の11第1項第1号から第6号まで(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物を輸入した者は、10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

関税法69条の11の1項1号にあるように、覚せい剤は輸入してはならない輸入禁制品とされています。
この輸入禁制品を輸入すると、関税法違反という犯罪が成立することになります。
関税法109条にあるように、覚せい剤輸入による関税法違反は10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金、もしくはこれらを併科されます。

関税法は、普段なかなか目にすることのない法律であるとともに、覚せい剤取締法のように法律名と覚せい剤が簡単に結びつくものではないため、覚せい剤輸入事件で関税法違反が成立するということを知らなかったという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、覚せい剤輸入による覚せい剤取締法違反の刑罰も非常に重いものでしたが、関税法違反の刑罰も非常に重いものであることがお分かりいただけたと思います。

◇覚せい剤取締法違反と関税法違反◇

では、覚せい剤輸入によって覚せい剤取締法違反と関税法違反が成立するとして、有罪となった場合の刑罰はどのようにして決められるのでしょうか。

複数の犯罪が成立する場合、単純に成立する犯罪に定められている刑罰をそのまま足せばよいというわけではなく、成立した犯罪それぞれの関係性によって、その処理のされ方が異なります。
今回の覚せい剤輸入事件のような場合、覚せい剤取締法違反にあたる行為と関税法違反にあたる行為は、どちらも同じ1つの覚せい剤輸入行為です。
このように、1個の行為が2個以上の犯罪に触れるような場合には、「観念的競合」という考え方で処理されます。
観念的競合では、複数の犯罪のうち最も重い刑罰の範囲で処罰されます。

覚せい剤の輸入による覚せい剤取締法違反と関税法違反の場合を考えてみましょう。

前回の記事で触れた通り、覚せい剤輸入による覚せい剤取締法違反の場合、その目的によって、「1年以上の有期懲役」(営利目的以外)か「無期または3年以上の懲役、情状によって1,000万円以下の罰金の併科」(営利目的)となります。
そして、覚せい剤輸入による関税法違反は、先ほど掲載した通り、「10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金、情状によってこれらを併科」という刑罰が定められています。
観念的競合の考え方を用いれば、営利目的以外の覚せい剤輸入の場合には「1年以上の有期懲役」、営利目的の覚せい剤輸入の場合には「10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金、情状によってこれらを併科」という範囲内で処罰されるということになります。

複数の犯罪が関連する刑事事件では、それぞれの犯罪がどういった関係なのか、どのような刑罰の範囲で処罰されるのか、といったことも検討しなければなりません。
そういった検討は、専門知識がなければ困難ですから、それも合わせて弁護士に相談し、サポートを受けることが望ましいでしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士が逮捕直後の取調べから裁判での公判弁護活動まで一貫してサポートいたします。
複数の犯罪に関連した刑事時件でお悩みの際には、弊所弁護士までご相談ください。

覚せい剤の輸入は裁判員裁判ですか?①

2020-04-10

覚せい剤の輸入事件で裁判員裁判となった事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

◇覚せい剤の輸入事件◇

滋賀県大津市に住んでいるAさんは、以前から覚せい剤などの違法薬物に興味を持っていました。
Aさんが覚せい剤について調べたところ、SNSで知り合った海外に住むXさんが、海外から覚せい剤を送ってくれると声をかけてきました。
Aさんはその誘いに乗り、Xさんから滋賀県大津市にあるAさんの自宅宛に、覚せい剤を送ってもらうことにしました。
しかし、いくら経っても覚せい剤が届かないことからおかしいと思っていたAさんの元に、滋賀県大津警察署の警察官がやってきて、Aさんは覚せい剤取締法違反関税法違反の容疑で逮捕されてしまいました。
Aさんが送ってもらった覚せい剤は、税関で止められ、検査の結果覚せい剤であると判明したことから捜査が開始されたということのようです。
(※この事例はフィクションです。)

◇覚せい剤輸入と覚せい剤取締法違反◇

覚せい剤に関わる犯罪として1番に思い浮かべられるのは、Aさんの逮捕容疑になっている覚せい剤取締法違反でしょう。
覚せい剤取締法では、覚せい剤の所持や使用だけでなく、覚せい剤の輸出入や譲渡等も禁止しています。

覚せい剤取締法
第41条 
1項 覚せい剤を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第41条の5第1項第2号に該当する者を除く。)は、1年以上の有期懲役に処する。
2項 営利の目的で前項の罪を犯した者は、無期若しくは3年以上の懲役に処し、又は情状により無期若しくは3年以上の懲役及び1,000万円以下の罰金に処する。
3項 前二項の未遂罪は、罰する。

第41条の2
1項 覚せい剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者(第42条第5号に該当する者を除く。)は、10年以下の懲役に処する。
2項 営利の目的で前項の罪を犯した者は、1年以上の有期懲役に処し、又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金に処する。
3項 前二項の未遂罪は、罰する。

第41条の3
1項 次の各号の一に該当する者は、10年以下の懲役に処する。
1号 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者

このうち、今回のAさんは海外から覚せい剤を日本に送ってもらっているため、覚せい剤の輸入に関する罪に問われていると考えられます。
覚せい剤輸入による覚せい剤取締法違反の場合、覚せい剤輸入の目的が何だったのかによって、その刑罰の重さだけでなく、裁判の形まで大きく変わることになります。

覚せい剤取締法41条1項にあるように、単純に自分で使いたいといった理由で覚せい剤を輸入した場合には、1年以上の有機懲役となります。
罰金刑のみの規定がないことから、起訴されれば必ず公開の法廷で裁判を受けることになり、有罪となれば執行猶予がつかなければ刑務所に入ることになりますから、これだけでも非常に重い刑罰が定められていることが分かります。

しかし、覚せい剤輸入の目的が営利目的、つまり、輸入した覚せい剤を売るなどして利益を得る目的で覚せい剤を輸入したような場合には、さらに刑罰が重くなります。
覚せい剤取締法41条2項にある通り、営利目的で覚せい剤輸入行為をした場合には、無期若しくは3年以上の懲役に処され、情状によってはそれらに1,000万円以下の罰金が加えて科されます。
執行猶予がつけられる条件の1つは、言い渡された刑が3年以下の懲役であることですから、営利目的の覚せい剤輸入では、執行猶予を獲得することも難しくなってくることが分かります。
さらに、刑罰に無期懲役が加えられていることから、裁判の形も通常のものとは異なり、次回以降の記事で詳しく取り上げる裁判員裁判という裁判が開かれることにもなります。

このように、覚せい剤輸入行為の目的によって、刑罰の重さや裁判の形が大きく異なるため、覚せい剤輸入事件の場合、どういった目的で覚せい剤を輸入したのかが非常に重要となるのです。
実際には営利目的でない覚せい剤の輸入であったとしても、営利目的を疑われ、そのように捜査されることも十分考えられます。
自分の認識通りに取調べ等に対応できるよう、弁護士のサポートを受けながら対応に臨むことが効果的です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、覚せい剤の輸入などの覚せい剤取締法違反事件にも、刑事事件専門の弁護士が迅速かつ丁寧に対応いたします。
裁判となった場合、取調べでの供述が証拠となる可能性もあるため、取調べ等への対応は事件が発覚してから早い方が望ましいでしょう。
逮捕されてしまったら、出来る限り早く弁護士へご相談することをおすすめいたします。
まずはお問い合わせ用ダイヤル0120-631-881までお電話ください。

SNS投稿から児童ポルノ禁止法違反

2020-04-05

SNS投稿から児童ポルノ禁止法違反

SNS投稿から児童ポルノ禁止法違反となったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

滋賀県東近江市の高校に通っている高校1年生のAさん(16歳)は、ある日、同級生のVさんをからかってやろうと、Vさんが着替えているところをスマートフォンでこっそり撮影し、その写真をSNSに投稿しました。
その投稿を見たVさんが両親に相談し、Vさんは両親と一緒に滋賀県東近江警察署に相談しました。
その結果、Aさんは滋賀県東近江警察署に呼び出され、児童ポルノ禁止違反の容疑で事情を聴かれることになりました。
Aさんは「からかい半分にSNSに投稿しただけでこんなに大事になってしまった」と驚き、両親とともに、少年事件に詳しい弁護士に今後について相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)

・SNS投稿で児童ポルノ禁止法違反

今回Aさんが違反したという容疑をかけられている児童ポルノ禁止法(正式名称「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」)では、児童ポルノの製造や所持、不特定若しくは多数の者への提供や、児童ポルノを公然と陳列することを禁じています(児童ポルノ禁止法7条)。
これは、たとえ行為者自身が児童(児童ポルノ禁止法2条1項の定義では、18歳未満の者)であっても変わりません。

児童ポルノ禁止法7条
(略)
3項 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
4項 前項に規定するもののほか、児童に第2条第3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第2項と同様とする。
5項 前二項に規定するもののほか、ひそかに第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第2項と同様とする。
6項 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
電気通信回線を通じて第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。

今回の事例のように、Vさん=児童(18歳未満の者)の着替えを撮影することは児童ポルノの製造に当たり得ます。
さらに、それをSNSに投稿することは、不特定多数の人にその児童ポルノを見せられる状態に置くことになりますから、児童ポルノを公然と陳列していることに当たります。
こうしたことから、Aさんの行為は児童ポルノ禁止法違反に当たり得ると考えられるのです。

・児童ポルノ禁止法違反以外にも犯罪が成立?

加えて、今回のAさんはVさんの着替えをこっそり撮影していることから、いわゆる盗撮に関連した犯罪の成立も考えられます。
事例には詳しい場所や状況がありませんが、場所や状況によっては、児童ポルノ禁止法違反以外に、京都府迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反、建造物侵入罪などの成立が考えられるでしょう。

SNSに関連した児童ポルノ禁止法違反事件で被害者が判明している場合には、謝罪や示談交渉を行っていくことも考えられますが、当事者同士での交渉では処罰感情の高まりなどからこじれやすいと考えられます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所ではこうした児童同士の間で起こってしまった児童ポルノ禁止法違反事件のご相談・ご依頼も承っていますので、まずはお気軽にご相談ください。

警察出頭前の初回無料法律相談

2020-04-03

警察出頭前の初回無料法律相談

警察出頭前の初回無料法律相談について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

Aさんは、滋賀県近江八幡市で暮らす会社員です。
ある日Aさんは、路上で好みの女性Vさんを見かけたことから、Vさんに突然抱き着き身体を触るという痴漢事件を起こしてしまいました。
Vさんが悲鳴を上げたことからその場から逃走したAさんでしたが、後日、滋賀県近江八幡警察署から電話がかかってきました。
「警察署で話を聞きたい」と言われたAさんは、警察へ出頭する予定を決めましたが、どのように対応していいのか分かりません。
そこでAさんは、初回無料法律相談をしている弁護士に相談し、出頭前に警察への対応等について詳しく聞いてみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)

・出頭前に弁護士に相談

もしもあなたやあなたのご家族が警察に出頭を求められたら、警察から連絡が来たら、どのように対応するでしょうか。
取調べにきちんと対応できるのか、逮捕されてしまうのではないか、たくさんの不安を抱えられることでしょう。
そもそも警察の連絡へもどう対応していいのか、と困惑される方も少なくないでしょう。
だからといって、刑事事件を起こしてしまった、犯罪を疑われているという話は非常にデリケートで、周りの人に相談しようにも相談しづらいでしょう。
そんな時に活用していただきたいのが、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所弁護士による初回無料法律相談です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士による法律相談を、初回無料で行っています。
弊所の弁護士による初回無料法律相談では、刑事事件専門の弁護士から直接話を聞くことができます。
刑事事件の当事者から事情を聞くことで、弁護士もより詳細なアドバイスをすることができます。
例えば、出頭後の取調べが不安な方には、取調べの対応方法や気を付けるべきポイントを弁護士からお話しすることができます。
取調べで話した内容は、後々裁判になった時に証拠として使われる可能性がありますから、自分の認識と違うことを話してしまわないよう、取調べを受ける段階から注意する必要があるのです。

他にも、出頭後の逮捕が心配な方には、初回接見サービスを含む弊所弁護士による弁護活動のご案内も可能です。
逮捕されないようにどのような準備が必要なのか、逮捕されてしまったとしたらどのように活動をすべきか、弁護士から聞いておくことで、出頭前から逮捕に備えることができます。

弁護士への相談、と聞くと敷居が高いように感じられるかもしれませんが、弊所の弁護士による法律相談は誰でも初回無料でご利用いただけます。
弁護士への相談を通じて刑事事件の手続きや流れ、対応の仕方や注意点をあらかじめ把握しておくことで、いざ取調べや逮捕となった時にも混乱を最小限に抑えながら臨むことが期待できます。
先述のように、刑事事件に関するお悩みは誰にでも相談できることではありませんし、専門家からのアドバイスは効果的です。
滋賀県刑事事件にお悩みの方は、お気軽に0120-631-881までお問い合わせください。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所弁護士によるサービスを、専門スタッフが丁寧にご案内いたします。

強制わいせつ罪の「わいせつな行為」

2020-04-01

強制わいせつ罪の「わいせつな行為」

強制わいせつ罪の「わいせつな行為」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

滋賀県甲賀市に住むAさんは、ある日Aさん宅に訪問販売に訪れた会社員の女性Vさんが好みだったことから、Vさんの手をつかみ、露出させた自分の下半身を触らせようとしました。
Vさんがとっさに身を引いたことから、Vさんに自身の下半身を触らせることはできませんでしたが、Aさんはその掴んだVさんの手を強い力で引き寄せ舐めるなどしました。
そして、AさんはさらにVさんにキスをしようと抱き着きましたが、Vさんが悲鳴を上げて近くの交番に逃げ込んだため、そのまま駆け付けた滋賀県甲賀警察署の警察官に強制わいせつ罪の容疑で逮捕されることとなりました。
Aさんの逮捕の知らせを聞いたAさんの家族は、どうしていいのかわからず、インターネットですぐに対応してくれる弁護士を探すと、弁護士の事務所に連絡し、まずは弁護士にAさんのもとへ接見へ行ってもらうことにしました。
(※令和2年3月31日YAHOO!JAPANニュース配信記事を基にしたフィクションです。)

・強制わいせつ罪と「わいせつな行為」

今回のAさんの逮捕容疑は強制わいせつ罪です。
強制わいせつ罪は、刑法176条に規定されている犯罪です。

刑法176条(強制わいせつ罪)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。
13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

この条文を見てみると、強制わいせつ罪は「暴行又は脅迫を用いて」「わいせつな行為」をすることで成立するということが分かります。
強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫を用いて」とは、相手(被害者)の抵抗を押さえつける程度のものである必要があると言われています。
例えば、今回のAさんのように、被害者であるVさんの手をつかんで強い力で引き寄せたり、抱き着いたりといった行為は、相手の抵抗を押さえつける程度の暴行と判断される可能性が高いでしょう。
その他にも、手を押さえつけたり体を縛るなどして拘束したり、「抵抗すれば殺す」など強い言葉で脅したりすれば、強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫を用いて」いることになると考えられます。
ただし、強制わいせつ罪の「暴行又は脅迫」といえるかどうかは、単に加えられた暴行や脅迫の力が強いかどうかだけではなく、加害者と被害者の年齢や体格差、犯行時の状況等様々な事情によって判断されます。

では、「わいせつな行為」という行為はどういった行為を指すのかというと、被害者の性的羞恥心を害す行為であるとされています。
つまり、簡単に言えば、被害者が性的に恥ずかしい、不快だ、と感じる行為が強制わいせつ罪の「わいせつな行為」なのです。
例えば、日本以外では、挨拶としてお互いがハグをしたりキスをしたりといった文化のある国もあります。
お互いが挨拶の意味で認識しながら相手に抱き着いたりキスしたりする場合には、お互い性的な感情を持たずに同意して行っているわけですから、性的羞恥心を害することはないでしょう。
しかし、相手の同意を得られていない状態で相手の意思に反して抱き着いたりキスをしたりすれば、相手が性的に恥ずかしい、不快だと感じる可能性が出てくることは想像できるでしょう。
なお、以前は強制わいせつ罪の成立に、いわゆる「性的意図」が必要であるとされてきましたが、近年その考えは変更され、加害者に「性的意図」がなくとも強制わいせつ罪は成立すると考えられています。
このように、強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」とは、一見分かりやすい行為のように見えて、その時の状況や前後の流れ等の事情を加味して考えなければいけない行為なのです。

今回の事例について考えてみましょう。
今回Aさんは、Vさんの手を強くつかみ引き寄せる等の行為をしていますから、Vさんの抵抗を著しく困難にする「暴行」を用いていると考えられます。
そして、下半身を触らせようとしたうえでVさんの手を舐め、抱き着く行為をしています。
こうした一連の行為は、Vさんの性的羞恥心を害す行為だと考えられますから、Aさんは「暴行…を用いて」「わいせつな行為」をしたといえ、強制わいせつ罪が成立すると考えられるのです。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、強制わいせつ事件を始めとする性犯罪事件のご相談・ご依頼にも対応しています。
ご相談者様のニーズに合わせたサービスを0120-631-881でご案内していますので、まずはお気軽にお電話ください。

置き忘れ荷物の窃盗事件

2020-03-30

置き忘れ荷物の窃盗事件

置き忘れ荷物窃盗事件について,弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~

Vは,滋賀県守山市で,荷物を持ってバスを待つ行列に並んでいたが,持つのに疲れて荷物を地面に置いた。
そして,荷物を置いたことを失念してしまい,荷物を持たないまま,行列が進むのに合わせて前に進んでしまった。
そこにAが通りかかり,Aは,地面に置かれた荷物を誰も持って行こうとしないのを見て,それを自分の物にしようと考えて持ち去った。
Vは,バスに乗る前に荷物を持っていないのに気付き,慌てて現場に戻って来た。
気付いてから引き返すまで数分,気付いた地点と引き返してきた地点との距離は約20メートルだった。
置き忘れた荷物がないことに気づいたVは係員に相談し,滋賀県守山警察署に通報。
ほどなくして,Aが荷物を持ち去ったことが判明し,Aは滋賀県守山警察署に,窃盗事件の被疑者として呼び出された。
Aは,窃盗罪に問われているが,荷物は置き忘れられた物であって誰かが所持しているとは思わなかったと弁解しており,刑事事件に強い弁護士に,この事件の見通しや対応の仕方を相談してみることにした。
(事実を基にしたフィクションです)

~窃盗罪とは~

今回の事例でAが問われている窃盗罪は,刑法第235条に規定されている犯罪です。

刑法第235条(窃盗罪)
他人の財物を窃取した者は,窃盗の罪とし,10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

窃盗罪の条文に出てくる「窃取」という言葉は,その物の占有者の意思に反して,物の占有を占有者から自分や第三者のところに移転させる行為を指しています。
占有とは,その物を支配・管理していることを指しており,つまり,その物を支配・管理している人の意思に反してその物を支配・管理を移してしまうことが窃盗罪の「窃取」という行為に当たるものなのです。
典型的な「窃取」行為としては,万引き行為が挙げられます。
万引きは,品物を占有している店の意思に反し,品物を自分の手許に移転させる行為ですから,窃取行為に当たります。
皆さんの中にも,窃盗罪の犯行態様として万引きが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。

ここで,窃盗罪の「窃取」と言えるためには,物の占有が誰かのところにあったことが必要です。
本件では,Vは,荷物を地面に置いたことを忘れて行列が進むのに合わせて前に進んで行ってしまいました。
Vは,荷物の占有を失ってしまったとは言えないでしょうか。
もしVが荷物の占有を失ってしまっており,ほかにその荷物を占有している人がいなかったとしたら,その荷物は誰の占有下にもない「遺失物」ということになり,弁解のとおり,Aの罪責は遺失物等横領罪に止まることになります。

刑法第254条(遺失物等横領罪)
遺失物,漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。

~占有~

本件のような置き忘れた物について,なお本来の占有者の占有があるかどうかについて,昭和32年11月8日の最高裁判所判決では,「占有は人が物を実力的に支配する関係であつて,その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によつて一様ではないが,必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく,物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。しかして,その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない」としています。
つまり,占有は手放した瞬間に直ちに失われるわけではなく,占有者の支配力が未だ及んでいると言えれば,占有は未だ失われていない,ということです。占有者の支配力が及んでいるかどうかは,占有者が支配力を及ぼし得るような場所的関係にあったか,占有者が物に対して占有する意思を持っていたか,などの事情から判断されます。

本件では,荷物を置き忘れた地点とVがそれに気付いた地点は約20メートルの距離で,Vと荷物との間に視界を遮るような物もなく,Vが気付いたのも数分後という短い時間であったことなどから見て,荷物はなおVの実力的支配内にあったと言え,未だVの占有を離脱したものとは認められないと判断されたのだろうと考えられます。

~占有を奪う故意~

また,今回,Aは荷物に対してVの占有が及んでいると認識していなかった旨の弁解をしています。
窃盗罪の成立には,他人の占有を侵害することの認識が必要ですから,Aの主張は,窃盗罪の故意がなかったという主張であると言えます。

しかし,本件では,当時,荷物はバス乗客中の誰かが一時的にその場所に置いた物であることは何人にも明らかに認識し得る状況にあったとされ,Aがこれを遺失物と思ったという弁解は認められないという可能性が考えられます。
置き忘れられた物を拾っただけだから窃盗罪ではない,という弁解はしばしば聞かれますが,それが必ずしも通用するとは限らないということです。

窃盗罪や遺失物等横領罪の場合,被害者と示談交渉をして被害弁償と謝罪をしていくことが不起訴処分を目指したり重い刑罰を避けたりする上で有効です。
そのため,示談交渉の経験豊かな弁護士を通じて,少しでも早く被害者との示談に動いてもらうことをお勧めします。
また,もし身柄を拘束されているような場合には,被害者の方への被害弁償および示談を行うことで,身柄解放の可能性も高まります。

窃盗事件や遺失物等横領事件でお困りの方,またはそのご家族は,刑事事件に強い弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所弁護士にご相談ください。

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